第5話 ダークエルフのギャルと魔王と、カレーライス その1

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第5話 ダークエルフのギャルと魔王と、カレーライス その1

「おじー。今日はカレーつけ麺ちょうだーい」  ダークエルフギャルが、今日もカレーを食いに来た。この娘はうちの常連で、カレー好きのギャルだ。 「おう。おまちどう。今日は、カレーライスじゃないんだな?」 「つけ麺が流行ってんじゃん。やっぱさ、流行りには乗っかっておきたいかなって」  ギャルが、Vサインをする。 「ごきげんよう、プリティカさん」  デボラが、『プリティカ』というギャルに声をかけた。  ふたりともリボンタイが同じピンク色だから、同級生か。 「プリティカっていうんだな?」 「チガウヨー。プリティカはあだ名ー。ホントはねー、『クリッティカー・アルフェ』っていうんだよねー。『反発を恐れぬ、宵の明星』って意味なんだよー」  しかし「あまりかわいくない」と、クラスメイトからあだ名をつけてもらったらしい。 「あだ名か。『リティ』じゃダメなのか?」 「それじゃあ、『ピクシー』じゃーん。エルフじゃないじゃーん。おじ、ウケるー」  地球のサッカー選手の知識もあるのか。見た目に反して、博識なのかもしれん。 『プリティカ』か。キラキラなあだ名って、異世界にもあるんだな。 「やっと名前、教えられたねー。いつも忙しそうにしてるからー、お話できなかったー」 「プリティカさん、入学当時からずっとカレーばかりですね?」 「カレーは、全部溶け込んでるでしょー? 人類の叡智が詰まってるーって思えない? いいカンジだよねー」  アツアツのカレーつけ麺を、プリティカはズズズッ、と勢いよくすする。カレーうどんのように。 「みんなさー、カレーみたいに混ざっちゃえばよくない?」  プリティカが、ちょっとさみしげな顔をした。 「カレーが制服に、ハネちまわないか?」  うちの学食は全店、ナプキンエプロンも用意してある。 「いいって。こんなハネくらい防げないで、魔法使いは名乗れないよねー」  たしかにプリティカの制服には、カレーがハネ飛んだりしていない。他の生徒は、ちゃんとエプロンで防いでいるのに。 「こういうしょうもない魔法ばっか、うまくなっていくんだよねえ」  プリティカが「ごちそーさまー」と、手を合わせる。 「おじー。今日もおいしかったー。またおねがーい」  食器を返しに来たプリティカが、こちらに手を振った。 「遊んでそうな見た目に反して、すごい魔法使いだったりするのか? あの娘?」 「気になりますの?」  デボラがジト目で、オレを見つめてくる。 「常連だからな。悩みとか抱えていなかったらいいと思ったんだだけさ。で、どうなんだ?」 「はい。プリティカさんは、わが校きってのエリートですわよ。ただ」  プリティカはエリートであり、はみ出し者でもあるらしい。 「そういえば、友だちを連れている感じではないな」  ギャルと言えば、たくさん友だちがいる印象を受けるが。 「昼食のときだけは、一人になるそうです。ご飯に集中したいとかで」  休み時間や放課後のおやつタイムだと、友だちと連れ立っているそうだ。 「お前さんは、仲良くないのか?」 「クラスメイトですが、あまり会話はしませんね。いつも周りに人が集まっていまして」 「でも、学食だけは一人と」 「というより、人との距離感が絶妙なのですわ」  プリティカの交流関係は、あくまでも広く浅いという。個人を尊重はするものの、深く人と関わろうとはしない。 「事情でも、あるんだろうか?」 「さあ。探ってみましょうかしら?」 「いや。そこまではいいんだ」  ただ食っている途中に、表情が曇ったのが気になる。  まあなにがあろうと、プリティカ個人の問題だ。オレが気にしても、しょうがねえよな。   ~*~ 「じゃねー」  おやつタイムを終えて、プリティカは帰り支度をする。  今日も、楽しい勉強会だった。  そういえば最近、クラスメイトのデボラ某が、イクタおじさんの学食を手伝っている。ぜひその経緯を聞いてみたいものだ。そうすれば、もっとおじさんとデボラと仲良くできるかもしれない。 「クリッティカー様」  父親の使いが、またやってきた。メイド長の、リリム族だ。 「リリムか。父に言われてきたのだな?」  いつものギャル語を封印し、直接脳内で会話をする。この念話は、魔族特製の周波数を使う。魔法学校の者には、虫の声にしか聞こえないはず。 「女性型の魔族を連れてきた辺り、父も多少は学習したか」 「はい。また像を破壊されては、かなわぬと」  前はオスのガーゴイルをよこして、学校の石像に擬態させていた。学校にバレないよう、秒で撃退したが。 「何用だ? ここはお前のような輩が来るところではない」 「そう申されましても、お父上はいつこの学園を支配するのかと、気をもんでいらしております」  女性形モンスターが、責めるような物言いで食って掛かる。 「学園をシメるとか、前時代的。不良か、ってのー」  またプリティカが、ギャル語に戻した。  相変わらずコイツラ魔族は、カレーのシミみたいなヤツラだ。関わりたくない。 「世俗的は話し方はお控えなさい、クリッティカー姫」 「うるせえなー。テメエはウチのママかってのー」 「まったく。亡きお母上に、まったく似てらっしゃいませんね。少しは魔王の血を受け継ぐ存在である自覚を、お持ちくださいませ」  リリムが、プリティカを責めた。
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