第7話 ダークエルフとカレー

1/1
前へ
/52ページ
次へ

第7話 ダークエルフとカレー

「ですので、モクバさんの食材を抜きにして、わが校で学食は提供できません。どうか、お引取りを。お気持ちは、本当に感謝しています」  誠心誠意、頭を下げる。モクバさんともども。  何事かと野次馬たちも集まってきた。 「イクタおじー。おはよー。どうしたの?」  その中には、プリティカの姿も。 「なんでもありません! 教室に戻って!」 「あ、ちょっとまって! オヤジ、なにやってんの!」  父親の姿を見つけて、プリティカが詰め寄る。 「お前のために、食材を持ってきたんだぞ」 「余計なお世話だっつーの! 誰も、そこまで頼んでない」  腰に手を当てて、プリティカは父親を責めた。  それだけで、伯爵はシュンとなる。結構、娘に頭が上がらない様子だ。 「大事な娘が口にするものだから、食べ慣れた物がいいと思ってな」 「他の生徒は、食べ慣れてないじゃん」  ど正論を突きつけられて、伯爵も黙り込む。 「それより早く帰って。通学の邪魔だし」 「コホン。わかった」  騒ぎが大きくなって気まずくなったのか、伯爵が咳払いをする。 「では。イクタさん、みなさん、ご迷惑をおかけしましたな。今日は帰ります。では」  馬車に乗って、伯爵は帰っていった。その姿は、どこかさみしげである。 「なんだ、あれは?」 「おおかた、ウチに会いに来る口実だけほしかったみたい」 「親と仲が悪いんだな?」 「うん。親の事業を継いだだけの田舎者のくせにー、エラそうなのー」  仲良くできればいいが。   ~*~  プリティカは、的である木人に、ファイアボールを当てる。相手を父親だと思って撃ったら、木人の上半身が吹っ飛んでしまった。 「よ、よくできました」  実技担当の教師の顔が、引きつっている。    次の授業では、マンドラゴラの正しい扱い方を学ぶ。  プリティカは土を掘って、三分の一だけ切り取った。 「そうです。後は強い生命力で、勝手に葉っぱが芽吹きます。引っこ抜くから、悲鳴を上げてしまうので」  切っても悲鳴は出るのだが、土が防音の働きをしてくれる。 「ですが先生、葉を切ってしまっては、成長が止まってしまいます」  生徒の一人が、質問をした。 「大丈夫ー。葉っぱさんはー、また生えてくるからー」  マンドラゴラの成長度合いは、計り知れない。水と土さえあれば、また再生をする。にんにくをペットボトルで栽培するのと、同じ原理だ。 「ただ、季節だけには気をつけてねー。暑い寒いは苦手だからー」  女生徒が、プリティカの解説に「おー」とうなる。  だいたい、すべて実家で学んた知識なのだが。    田舎魔王の伯爵は、単に先代魔王の遺産を引き継いだだけだ。  もちろん、娘であるプリティカ自体もエラいわけじゃない。  なのに、父親はふんぞり返っている。  遺産を守るために必死なのだろうが、少々いきすぎな気もする。  なんとか、彼の目を覚まさせられないか。   ~*~  その後、何事もなく昼食が進む。 「おじー、カレーほしー」  食券を持って、プリティカが食べに来た。 「おいよ。そら」  できたてのカレーを、プリティカに差し出す。 「ありがとー」 「でさ、おじー。頼みあるー」 「なんだよ?」 「カレーの作り方、教えてー」  意外な頼み事だった。 「どうしたんだ? 料理はできるんだよな?」 「うまく作れない。おじみたいなカレーは難しい」  実家にもカレーは存在するが、スープカレーだという。 「お前さん、カレーばかりで飽きないか?」 「別にー。郷土料理だもーん」  カレーは、ダークエルフの伝統料理だとか。 「といっても、ダークエルフの作るカレーってめちゃ辛くてさー。ウチは食べられないんだよねー」  そのとき、母親が作ってくれたのが、ニホン産カレーライスだったという。 「あれで辛さに慣れていってー。今でも大好きなのー」 「ダークエルフが作っているのは、本格的なヤツだな」  ライスも使うだろうが、オレたちニホンジンが食ってるカレーはちょいと馴染んでいないんだろう。  この娘は、舌が敏感すぎるのかもな。  プリティカのカレー好きが、母親の影響だったとは。 「おじのカレーってさ、ママの作る味と近いんだよねー」 「そうか」  なんだか、照れくさい。 「教えるのがムリならさ……オヤジに、食べさせてやってくれないかな?」 「そっちの方がいいかもな」  オレは、プリティカの頼みを聞き入れる。 「ですが、よろしいんですの? なにか納得させられる、秘策なんかがあるとか?」  デボラは言うが、オレは「ない」とキッパリと言い切った。 「ダメじゃありませんの。普通こういう展開になったら、とびっきりうまいカレーライスを作る流れなのでは?」 「そんなことをしてどうする? 伯爵には、いつものカレーを食べてもらう。そうじゃなかったら、学食を開く意味がない」  学食は店ではあるが、繁盛すれば勝ちって場所じゃない。  あくまでも、生徒たちにとっての憩いの場であるべきだ。  それを忘れて、伯爵の舌に合わせたりなんかしたら、高級志向に走ってしまう。 「ここは、庶民も通うんだ。絶妙な金銭バランスで、成り立っている」  だから、普通のカレーを味わってもらうんだ。 「それに、オレはこのカレーこそ、あの伯爵を納得させられると思っているんだよ」 「どうして? その確証はなんですの?」 「決まってんだろ。プリティカがうまいって、いってるんだからな」
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加