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ある日の事だった。
私は農協の皆さんに配る為にグリルでアップルパイを作っていた。
この時期になると収穫は、ミカンぐらいしかなかったから私の家に農協の皆んなが、おばあちゃんの様子見がてら集まっては談笑に花を咲かせる。
「貴美子さんも、ばあ様の世話をしながら頑張っておるが大丈夫かね?」
「うちらも年寄りだから貴美子さんだけが頼りなんだべさな」
貴美子というのは私の名前だ。
大学を卒業して直ぐに、この田舎に来て20年になるから、そんなに若くはないが……このグループの中では一番若い。
「なんも。今、アップルパイを焼いとるで、お茶、入れますね?」
そう言って私はキッチンに戻りヤカンに水を入れ、火をくべた。
グツグツグツグツ。
ピーピーピーピー。
私がアップルパイの焼き加減を見ている間にヤカンから湯気が音をたてて吹き出し、水は熱湯へと変わり煮だっている。
「しまった!!!!」
お茶の適正温度よりかなり上昇してしまったヤカンのお湯を止めようと私は慌てコンロに向きを変えた。
と、その時だ。
熱々のアップルパイが入っているレンジグリルのコードに私は足を引っ掛け、レンジグリル機は見事に私の脹脛にぶつかり、中からアップルパイが飛び出して私の左腕に乗っかってきた。
「っっっ!!!!!」
私は熱さのあまりに声にならない悲鳴をあげた。
その時だった。
「貴美ちゃん!!何やっとるばい!!」
とキッチンに駆け込んできた人物が私の目の前に立った。
その人物は……。
寝たきりだった筈の私の、おばあちゃんだった。
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