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自分の心を守るために殺人を繰り返してきた少女。一番大切な人を殺してしまったこと、誰かを殺さなければいけないという苦しみに耐えられず自首をした。だがそこでわかったのは、実は兄を殺していなくて無意味に人を殺してきただけという事実。
兄は警察から連絡をもらってすぐに面会に来た。警察は犯人が精神的に追い詰められている事や、十代の女の子ということを考慮して良かれと思って面会を許可した。殺したはずの兄が目の前に来て、そして言ってしまった一番言ってはいけない言葉。
「沙織、俺は無事だから大丈夫だよ」
その言葉に、事実に、耐えきれず彼女の心は壊れてしまった。
あれから毎日ここにくる。そして真正面から事実を突きつける。すると彼女はいつも同じタイミングで悲鳴をあげて向き合いたくない記憶を忘れてしまう。そして次に会ったとき、同じ設定で話し始める。同じ内容を何度も何度も。
殺人犯であること自体を忘れることもできるはずなのに、忘れるのは兄が生きていたことと面会のことだけ。
「沙織の殺人衝動は止められない。誰かを殺させるわけにはいかないだろう。だからこれでいいんだよ」
暗い笑顔で告げる男に、病院の職員は彼女を部屋に連れて行った。
特殊な精神病患者が入院するこの場所。国と警察が隠し続けるこの場所は、経済界や地位のある者の関係者だけが入院する特殊な場所だ。世間の目にさらされることなく、患者を「守るため」に存在している。
「さて、仕事に行かないと」
また来るからね。
既に妹はいないのに、妹が座っていた椅子に向かって小さくつぶやく。施設を出ると、車が既に待っていた。後部座席に座りパソコンを開くと溜まっているメールをチェックする。秘書は車を発進させた。
「来週から選挙が始まります。いつマスコミに嗅ぎつけられるか。選挙中だけでもここへの訪問は控え――」
「黙れ」
「はい、申し訳ありません先生」
ポケットには今でも鍵が入れてある。誰も住んでいないアパートはもう五年以上無人の状態で家賃を支払い続けている。
それでいいのだ。これは宝物なのだから。もし、沙織に今の方法が効かなくなったら。記憶を失わなくなったら、これを見せて追い詰めなければいけないのだから。
鍵を取り出して軽くキスをした。まるで呪いのような、罪の証に。
――果たして、誰の罪なのか。一番悪いのは、誰だ?
「殺人犯とお話ししなきゃいけないなんてかわいそうですね。私が未成年だからカウンセリングとか、正常な判断ができたかとか。いろいろ難しいんでしょうけど」
「そんなことないよ。どうぞ、君の話を聞こう。話してごらん」
何百回でも聞くよ。
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