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「これは俺の本心だから」
「へえ?」
どうやら気に触ったらしく、少女が不愉快そうに鼻で笑う。
「何それ同情ですか? 本当、カウンセラーって大っ嫌い。心にも思ってない事を平気で嘘ついてくるから。だから断ってるのに」
「いや。俺個人の考えだよ。今度はこっちが話していいかな」
「お好きにどうぞ」
あなたの話には興味ないです、と言いながら本当に退屈そうに欠伸をして足を組む。そんな態度を咎めることなく、彼は静かに語る。
「そんなおかしなプレゼントの渡し方をしようとしないで。ちゃんと迎えに行ってから今日から一緒に暮らそうねって言えばいいだけだったのにな。それか事前に話しておくか。馬鹿なのは兄の方だ」
その言葉に少女は今度こそ不愉快さを隠そうともせず顔を顰めた。
「お兄ちゃんを悪く言わないでくださいよ、怒りますよ。私殺しちゃいましたけど今でもお兄ちゃんのこと大好きなんです」
「ありがとう」
「?」
わけのわからない返事をされて眉間にしわを寄せる。なぜ彼にお礼を言われなければいけないのか。
「お前の好きに話していいし、何を言ってもいいんだ。それがお前を唯一守る手段なんだから。そのためなら俺はなんだってするよ」
「……さっきから何言ってるんですか?」
「公園に落ちていたのはバットなんかじゃないよ。落ち葉対策のために伐採された公園の木の枝がそのまま放置されていただけだ。そんなもので殴られて死ぬわけがない」
「なに。なにが? え?」
目の前の青年が髪をかき上げる。そこには小さな傷跡のようなものが見えた。
「五針塗っただけだ。致命傷なんかじゃない」
「……」
慈愛に満ちた眼差し。この顔を、この瞳を知っている気がする。どこで? 一体いつ、どこで見た。いや、いつも見ていたのではないか。
「……そんなはずない、お兄ちゃんは死んだ」
「死んでない。痛くて動けなかっただけだよ」
「お兄ちゃんは死んだ! だってそうじゃなきゃおかしいでしょ!?」
完全に裏返った声で叫ぶと勢い良く椅子から立ち上がった。立ち会っていた人が腕を拘束する。
「私は殺人犯なの、一番大切な人を殺した極悪人なの! 死刑にならなきゃおかしいの! だから弁護もカウンセラーもいらないの!」
「正当防衛が認められるし、そもそもお前は何も悪いことしてないよ」
「なんでそんなこと言うのぉ!? やめてよ! だってそうじゃなきゃ、私が家族殺しの最低の殺人犯じゃなきゃ! 私が今まで殺してきたのは!」
殺さなければいけないと思って殺してきたのは。
「何の意味もないんだよ、沙織」
「いやあああ!!」
その瞬間気絶して一気に力が抜けた。押さえていた人がそのまま背負う。
「……部屋に連れて行きます」
「お願いします」
「残酷な人ですね、あなたは」
「そうだね。それがどうかした?」
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