未練たらたらのクリスマスに。

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昔から、愛情を表現するのが苦手だった。 「たー君はママのこと嫌いだもんねー」  小学校低学年の頃、母はそう言って出て行き、帰ってこなかった。自分は泣きもせず父からは強い、と言われたが、内心めちゃくちゃショックだったし、なぜ嫌いだもんねと言われたのかもわからなくてずっと混乱していた。 たしかに、ニコニコ笑わなかったし、後ろをぴったりついて歩きもせず、周囲に母の話もしなかった。でも、ちゃんと感謝はしてたし、好きだったのだが。 「たー君私のことあんま好きじゃないよね」 俺のことを母と同じ呼び方をしてきてた 高一でできた彼女も、そう言って俺の元を去った。 フラれてから一ヶ月。 俺の人生ってずっとこうなのかなと思いながら 喫茶店でアイスカフェラテを飲む。 変な形の間接照明、板のような真っ平らの黒い皿、高いだけで座りづらい椅子。まあお洒落なんだが、好きで入ったわけじゃない。彼女とデートして、解散にははやいからカフェで駄弁ろうとよく入っていた喫茶店、未練たらたらな俺は週一でここを利用している。 きっと店員からはこの店よっぽど好きなのねと思われてるだろう、なぜ彼女にはそれが通じなかったのか。 「……」 付き合いたてのメッセージのやりとりを確認する 『初デートたのしかった〜! たー君と映画語れてよかった!』 俺はこれにスタンプだけ返している。 それが最近のやりとりでは 『宿題やってなかったー今日徹夜だよー!』 『頑張れ』 とまあ学生らしいやりとりをしていて 俺のテンションは最初から変わっていない。元々そっけないし、テンションが低いし、口下手だし、手紙でもメッセージを送るにしてもそれは変わらない。逆に口下手なくせにメッセージだといきなりテンション変わる奴みるほうが、びびる。 俺は、俺なりにいつだって…… けれどそのせいで誤解を受けて、母も友達も彼女もいなくなって これ俺がだめなんだよな。 「次良い人いたら、毎日好きって言って…… らしくなくてもいいから……」 誰にも聞こえない声でつぶやく。 店が混んできた。 まだ、出る気にならない。 次、次ってなんだ 何年後だ。 ふわっとしたゆるいパーマ 校則違反にならない程度のスカートの丈 まじめに授業をうけて手をあげる姿勢がいい その姿 こちらを見るたびに微笑んで駆けつけてくれたこと、会うたびに手作りのお菓子をくれて 俺に会うのが楽しくて楽しくて仕方ないというような、えくぼの可愛い彼女。 「たー君、もしかして一人で文化祭の看板治してたの?すごい、みんな倒れても無視して帰ってたよー私も手伝うね!」 「達也君、文化祭に興味ないのはあなたの勝手にすればいいけどクラスの士気が下がるからさあ」 「何言ってるの委員長 この看板なおしたのほとんど、たー君だからね口先だけで興味ないのあなたのほうでしょ」 俺が好き勝手いわれてた時も かばってくれて そんな彼女に 「たー君私のことあんま好きじゃないよね」 そこまで言わせたのは…… 俺が悪い。こういう性格なおすから、帰ってきてくれないだろうか、まあいい子だしな すでに他に彼氏いるかもしれない。 窓からみえる、クリスマスツリーの飾り。 ぼんやりと、その輝きが美しいのだけがわかって 「……会いたいなあ……」 重苦しい声が出る。 瞼も重くなってきた、つらいなあ 寂しい、寒い。 その時、軽い声が響いた。 「会いたいって何?私に?」 「えっ!」 振り返ると、彼女が……由美が立っていた。 白いロングコート、黒いマフラー 女子あるあるな上は着込んでるのに下は薄着な立ち姿。 「ゆ、由美……なんで」 「いや、クラスの子からあいつ落ち込み方やばいよて聞いて……探してたんだよ ……たー君がそういうタイプなの知ってたけど なんかしんどくなっちゃって……」 「……今から態度改めるからって言ってももう遅い、か……?」 「……仕方ないなあ」 由美が両手をひろげ、俺の頭を覆う。 俺は泣きそうになってその手を彼女の背中にまわそうとした。 「あ、あのお、閉店時間です」 「…………あ」 寝てたらしい。店員に起こされて気づく。 この夢も何度目だ。彼女が俺の不器用さに気づき、許してくれる、もう何回かみた夢だ。 俺はお会計をして、会社帰りやいいとこにデートいくようなスーツ姿の人間の間を通り、家に帰る。 そうしていると、俺以外の皆が繋がり合っているような気がした。 孤独なのは俺だけだ。 凍てついた空気が、白くなる呼吸が ひどくここが現実なのだと叩きつけてくる。 「……好きだよ」 「……好き」 たとえばもらったお菓子の袋を何十枚もとっておいたままで、写真も部屋に飾ってあって、行った思い出のところばかり巡って そんな誰にも伝わらない、ただ自分の中で思い出が重いだけの生産性のないことを繰り返している。 ここまでくると、本当に相手のことが好きなのかもわからない 俺はただ、寂しいのを助けてほしかっただけなのかもしれない。 俺の好きは、どこか縋るようで 相手のためではない気がする。 それを認めたくなくて、普通の恋人同士が言うような 好き、愛してるというフレーズを真似して……。 だから一人なんだ だからだめなんだ あと何回こういう反省会をすればいいのか。 そして今後の人間関係においてこの反省をいかす日はくるのか。 家に帰ると、玄関前誰かが立っていた。 由美だ。ははあ、今日は2回も幻をみるのか。 「…………」 「ちょっと……なんで素通りなの?謝りにきたのにホントに私のことすきじゃないの?」 「え?だって幻に話しかける必要はないし……」 「幻ってなに?!私の幻見てるの?!たー君」 今回の幻はなにやらテンションが高い。 俺が独り言いってるのを父や弟に聞かれても困る。 「クリスマスだから……一緒にツリーみにいって ……ついでに仲直りしようかなとおもって勇気出してここで待ってたのに」 「……だから、夢じゃん?」 「え?殴っていい?」 このあと、軽くだが殴られ若干痛く、動揺したままツリーを一緒に見に行った。 何時間かたって現実なのだとわかって。 ぼろぼろに崩れていた心が、拾い直されたような そして欠けていた最後のピースは 「お母さんのことさ、お父さんに聞いたことある?たー君。 実はあなたが思ってるより、あなたのこと大事にする人は、多いと思うんだよね 互いにそれが通じ合ってないだけでさ」 「あの……父さん、母さんのことなんだけどさ 連絡先だけでも知りたいなって……」 「……達也、いままですまんな 実は父さんが心狭くて母さんをゆるせなくて教えてなかったんだが……毎年達也宛に手紙届いててな 元気ですか、寂しくないですか て お前のせいだろうと思ったけど……まあ、夫婦の問題に子供は関係ないしな、悪かった、達也 この手紙を返すといい、そこから母さんと会ったり連絡先交換するかは達也の自由だ」 すごい、俺が十何年、うだうだやってただけのことが 由美の一言で動いた。 「俺、由美いないと駄目だわ」 「へー?好きすぎだね」 「……通じてよかったよ」 end
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