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放課後、忘れ物を取りに教室へ行くとそこに立花がいた。
教室の前でじっと立って何かを見ている。何をしているのかと近づいてみると、立花が見ていたのは一輝が他のクラスの女の子に抱きつかれている光景だった。
女の子の頭を撫でている一輝の姿を見て、そのまま固まっている立花に近づいた俺は、その場に居合わせたことを後悔した。
ふっと視線を立花の顔に向けると、涙が頬を伝っている。
「おい」と声をかけると、ハッとして立花がこちらを見る。
涙で濡れる瞳から目が離せなかった。
突然「俺なら立花を泣かせないのに」と胸の奥からふつふつと熱いものが湧いてきて、気づいたら立花の腕を引いて走り出していた。
走りながら、どこへ向かっているのか自分でもよく分からなかったが、
校舎から少し離れた開けた場所で立ち止まった。
はあはあと荒い息づかいだけが聞こえてきて、掴んでいた腕を離して立花の顔を見る。
涙に濡れた頬を拭おうとポケットに手を入れる
が、ハンカチなど持っていない事に気づいた俺は、自分の手で立花の頬を拭った。
瞳はまだ潤んでいてキラキラしている。
「佐竹くん見てたよね」
あいさつ以外に初めて交わした言葉が、
「たまたま通りかかって」だなんて。
「そっか、わたし、泣いてたのね。恥ずかしいな」と笑う立花がいじらしい。
「鈴木くんがみんなに優しいのは知ってたんだけどね。もしかしたら、なんて私が勝手に好きになっちゃったから⋯」
立花がつぶやくように話すのをただ黙って聞いていた。
無理に笑おうとする立花を見ると、胸の奥が熱くなる。
慰めの言葉が思い浮かばなくて、もどかしい。
「初めてちゃんと話したのに、こんな話でごめんね。もう、大丈夫だから!佐竹くんありがとう」
「じゃあ、またね!」と踵を返して立花が走って行く。
何か言わなければと咄嗟に叫ぶ。
「話!話ならまた聞くから。聞くことしかできないけど!」
立花は振り返って一瞬、おどろいたような顔をしたが、にっこり笑って手を振っていた。
「俺なら泣かせない」立花の涙で自分の思いに気づいた。
恋とは無縁だと思っていたから、俺は恋の仕方を知らない。
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