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「よかったわ! 私がこれだけ食べるように見えたのかと心配だったの」
「と、とんでもない! 失礼しました、そんなことはありません!」
騎士は目を丸くして、慌てて両手を自分の前で振り、違う違うと否定する。その様子がなんだか必死で笑ってしまった。
「ふふっ、では一緒にいただきましょう。あ、でもさすがにワインは」
「残念ですが勤務中なので」
騎士はそう言うとふにゃりと笑って果実水の入ったグラスを掲げて見せ、私にはワインをグラスに注いでくれた。
ホールからの明かりで照らし出された液体がはちみつ色に輝く。
「ありがとう」
ワインを受け取り香りを楽しんでいる隙に、騎士は慣れた手つきでお皿にオードブルを取り分けた。
「慣れているのね」
「騎士団の食堂ではこうして自分でサーブすることが多いんです」
「……ねえ、勤務中に騎士様がお料理を持って来て大丈夫だった?」
そう思い聞いてみると、騎士は悪戯っぽく笑って見せた。
「大丈夫です。知り合いが参加しているのでそいつに頼みましたから」
「そうまでして食べたかったの?」
「レディがとても美味しそうに食べていたので」
ふふっと嬉しそうに笑う表情は穏やかで優しい。初めて会った私にこんな風に人懐っこく笑いかけて、本当に騎士なのかと思ってしまうほど雰囲気の柔らかい若者だ。
「今日はここの警備で?」
「はい、今夜は僕のいる隊がここの警備担当なんです」
「では貴方に聞いたら分かるかしら」
「なんでしょう?」
「ほらあれ。あの明かりはコンサバトリーでしょう? 見学できるのかしら」
視線を先ほど見えたガラスの屋根に向けると、騎士もそちらを見た。
「はい。今日から一般公開されています。ここからだとちょっと遠いんですが」
「そうなの? 近く見えるわ」
「庭は騎士が見回りをしていますが、明かりが最低限なので危ないんです。ぐるっと回りこんで正面から向かわないと」
騎士は大きく口を開け次々とオードブルを放り込んでいく。それでも器用に話し続け、果実水をグイッと飲み干した。
「よく食べるわね!」
「すみません、ちょっとお腹がすいていて……」
「むしろ足りない?」
「はい、ちょっと……」
その言葉にクスクス笑うと、またポリポリと恥ずかしそうに頬を掻いた。
ホールからの明かりではよく分からないが、髪色は明るい方なのだろう。瞳の色も今は暗い影を落としていて分からないけれど、顔立ちは華やかだ。騎士の隊服がとてもよく似合う。
「ありがとう騎士様、とても美味しかったわ」
「お帰りですか?」
「ええ、あの温室に行ってから帰るわ」
騎士は慌てて残りのオードブルを口にして果実水を飲み干すと、ゴクリと大きな音を立てて飲み込んだ。喉が詰まりそう。
「では、僕に送らせてください」
「え?」
「温室まで行かれるのでしょう。僕がご一緒すれば庭を突っ切って最短で移動できますよ」
「でも」
「お皿はこのままでも大丈夫です。さっきウェイターにここで食べると話しておいたので回収してくれますから」
「そうではなくて」
「え、あ! 決してやましい気持ちで言っているのではありません! その、庭には他の騎士もいますし危険ではないんですが、足元が暗いですし、お送りするだけですから」
騎士は慌てた様子で両手を挙げ、おろおろと言い訳を始めた。その様子に声を出して笑ってしまう。
「そんな事は思っていないわ! 貴方みたいな若い方が私に何かするなんて、そんな心配してないもの」
「そ、そんなことは」
「それに、そんな目立つ格好で何かしようとは思えないわ」
紺色だけでは夜の闇に紛れるだろうけれど、白の礼服はほんの少しの明かりも跳ね返し闇でも目立つ。
クスクスと笑うと騎士は恥ずかしそうにぽりぽりと頬を掻いた。
「では、お言葉に甘えてお願いしようかしら。私はアメリア。アメリア・バーセルです、騎士様」
そう名乗ると、騎士はさっと手を胸に当て騎士の礼を取った。
「申し遅れました、私は王立騎士団第二部隊第一小隊副長マリウス・ビューロウと申します。それではお手を、バーセル嬢」
騎士らしく精悍な顔つきで名乗ったかと思うと、すぐにまた人懐っこい笑顔でふにゃりと嬉しそうに笑い、マリウスは白い手袋の手を差し出した。
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