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 からりと乾いた音が鳴り、バルコニーに続く掃き出し窓が開く。ひゅうと吹き込んだ冷たい一筋の風が、部屋の空気を一気に冷やした。    「さみぃ」    手早く窓を閉めた壱己(いつき)は、自分で自分の肩を抱くようにして縮こまりながら、急ぎ足でベッドに戻ってくる。私がくるまっていた布団をぐいぐい引っ張って、強引に隣に潜り込んで来た。  お互いの髪が触れ合うほど距離が近付いて、壱己が(まと)う煙草の残り()がふわりと鼻先を(かす)める。どこか甘ったるいミントのフレーバー。鼻の奥に残る重たいその香りが、私は少し苦手だった。  「布団、横取りしないで」  「寒いんだよ。せめて半分貸して」  一枚しかないシングルサイズの羽毛布団をひとしきり奪い合った後、結局身を寄せ合って公平に半分ずつ使う事にする。  ついさっきまで熱いくらいに火照っていた壱己の肌は、今は触れるとキュッと毛穴が引き締まるくらいに冷えきっていた。  「そんなに寒いんなら、煙草なんて我慢すればいいのに」  「無理。冬は室内喫煙可にしない?」  「駄目。部屋に(にお)いつくの嫌だもん」  私がすげなく断ると、壱己は声を立てずに喉を鳴らして笑った。  ただでさえ冷え込む十二月の夜、煙草ひとつの為にわざわざ寒空の下に出るなんて、人生で一度も煙草を吸ったことのない私にはちっとも理解出来ない。私達の趣味嗜好や価値観が相容れないのは、今に始まったことではないけれど。  ふと、壁の時計が目に入る。十時半。昼間見た天気予報で、夜中から明け方にかけて雨が降ると報じていたのをふと思い出した。  「今夜雨降るって言ってたよ。そろそろ帰った方がいいんじゃない?」  「嘘。俺、傘ない」  「ビニール傘あるから持って行っていいよ」  「それよりたまには泊めてくんない?なんかちょっと足りない」  壱己は半身を起こして私の腰の下に腕を差し込み、ぐっと抱き寄せる。もう片方の手が頬にかかり顎も引き寄せられて、隙間なく深く、壱己の唇が重なる。私の口の中にためらいなく割って入る壱己の舌。さっき触れた肌はきんと冷たかったのに、そこだけは別の生き物みたいに熱をもっている。  唇が離れると、目が合う。  私はすぐにふいと顔を背けて、壱己の手を振り払った。    「…駄目」  「冷てぇの」    そっぽを向いてちくりと私を責めながら、はじめから答えはわかっていたと言いたげに、壱己は笑う。  「泊めてくれる子なら他にいるんじゃないの。噂になってるよ。先月入った派遣の子といい感じだって」  「心当たりないね」  ふんとつまらなそうに鼻を鳴らして、壱己はぐしゃぐしゃと頭を掻いた。  「んじゃ、帰る」    むくりと起き上がって、壱己ははだけていたシャツのボタンを留める。私もベッドの隅にくしゃくしゃに丸まったニットを指先で探り当てて引き寄せ、そろりと腕を通した。
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