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誠はもうしばらくの間、巴に冷たく当たっていた。まともに話をしようとはせず、常に無愛想。イライラすることも多く、寝室も別にするようになっていた。
元々は社交的な性格をしていて、巴もその明るい性格に引かれたのだけれど、結婚して十年ほどでもう別人のようになっている。
いまも黙々と夕食を食べている。昔は食事よりも会話のほうに時間を割いていたくらいだ。喋りかけるのはいつも巴の方で、今日もそうだった。
「ねぇ、あなた。実は今度、同窓会を開こうって話があるんだけど」
「行ってきたらいい」
そっけなくそう答え、食事を続ける誠。
「そう?」
「ああ」
夫とは普通にやり取りはできる。けれど、そこから先の発展はない。
昔とは違い、すぐに会話は途切れてしまう。無理に話を繋ごうとすると夫は怒ってしまうことがあるので、巴としても慎重にならざるを得ない。
「昔の友達が転勤でこっちに戻ってくるみたいなの。それでみんなで集まろうかって」
「そうか」
異性かどうかを気にしないのだろうか、と巴は思う。付き合ったばかりの頃なら、どれくらい男性がいるのか確実に聞いたはずだ。
すでに自分たちの関係は破綻しているのだから、それも当然かもしれないのだけれど。
もし元カレである奏真と再開したら、再び学生時代の関係に戻るのかもしれない、そんな予感が巴にはある。
それでも、不思議と巴は罪悪感を感じていなかった。夫がどこかロボットのように見えているからかもしれない。
「結構楽しみにしてるの。昔好きだった人に会えるかもしれないし」
だからこそ、挑発するように話を続けてしまうのかもしれない、と巴は思う。
「そうか」
それでも誠の反応は変わらない。感情の揺れというものを全く感じない。ことさら制御しているような印象すらある。
「あなたはどう?同窓会とか行かないの?この前、連絡が来てたとか言ってなかった?」
夫の箸が一瞬止まった。再び食事を再開したとき、その手が震えているようにも見えた。
その反応を見た巴は、もしかしたら夫は自分と同じようにかつての恋人と浮気をしているのかもしれないと思った。そんな雰囲気はないのだけれど、女性の勘が全て正しいとは限らない。
誠は箸を置いた。そしてまだ半分ほど食事を残したまま、自分の部屋へと姿を消した。
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