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そのとき、クラス中の男子が凍りついた。
サキは神々しいほどの美しさと知性を持ち、ミニバスケットボールクラブのエースで、抜群の運動神経も兼ね備えている。
そしてなにより、まぶしいほどのほがらかな性格の持ち主だ。
そんなサキに声をかける勇気を持つ男子なんて、小学校の六年間、誰もいなかった。
「いいよ。デートごっこね。オレたちっていうのは、ハルのほかはヒカルでしょ? あたしとチリも、さくらまつりに行きたかったの」
――うそ! 誘えちゃったの?
あっけにとられていると、突然、背中をバシンと叩かれた。
衝撃の強さによろけて振り返ると、野球クラブのキャプテン平里(ひらさと)ダイチが、顔を引きつらせて立っていた。
「お前ら、サキのこと、軽薄な誘い方しやがって。オレもさくらまつりに行くけど、見張っているからな。サキと手をつないだりしてみろ。ボコッてやる!」
――うひゃー。こいつマジだ。嫉妬の炎だ!
ぼくは、簡単にボコられてしまうような男子ではないけれど、それでもダイチの本気度に背筋が寒くなったので、そのときは、目をそらして無視した。
そして、デート当日の朝が今。ぼくは、心臓をバクバクさせている。
デートに緊張しているからじゃない。
デートに遅れそうだからだ! 焦る!
ペダルをグルグル回して、坂道を駆け下る。
――大丈夫。間に合う!
前方に、緩い右回りのカーブが現れた。
――よし! このカーブを過ぎれば、『さくらさんさろ』まで百メートルだ。
速度を落とさず自転車を右に傾け、後輪を左に滑らせながら、カーブを曲がり切った。
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