第1話 ドキドキ!初デート

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開けた目の前に、とてつもなく大きな桜の木がそびえ立つのが見える。 ぼくたちの町の名物『神世桜(かみよざくら)』だ。 全高四十メートル、根元の幹回り二十五メートルの桜の木は、国内最大だ。 国の天然記念物に指定されている。 神世桜が、デートの待ち合わせ場所である三叉路(さんさろ)の目印だ。 神世桜の前には、石で造られた小さな三つの祠があり、さらにその前には、祠たちを守るように、小さな石塔が立っている。 石塔の前から、道が左右に分かれているから、この場所は、さくらさんさろと、呼ばれているのだ。 さくらさんさろの左右に分かれる道の左側から、車両通行禁止の花見会場が始まる。 桜が密集する左側の道は神世通りと呼ばれ、桜並木が無い右側の市街地に続く道は、現世(うつしよ)通りと呼ばれている。 ペダルを回してさくらさんさろに近づくと、残り五十メートルくらいで、神世桜の前に張られた大きな横断幕の字が読めた。 “神世桜五千年記念祭“と書いてある。 ぼくがあわてて出かける直前に、母さんと父さんが朝食を食べながら、話していたことを思い出した。 『一週間前に、今年のさくらまつりを五千年祭ってすることが観光協会で決まったそうよ。でも、ホントに五千年も経つのかしら』 『昔から、樹齢は五千年近くあるって言われていたからね。まあ、町おこしに、こじつけたんだろう』 ――ぼくにとっては、特別な祭りなんて関係ない。初デートってことが、すべてだ!
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