第2話 三姉妹

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――なに、爆発? 振り返ろうとした瞬間、突風に吹き飛ばされ、ぼくたちは、うつ伏せに倒れ込んだ。 「痛(いた)っ! なんだよ、今の、爆発?」 と、ハルの声。 ぼくたちは、三つの祠の前まで吹き飛ばされていた。 立ち上がって周りを見ると、世界が一変していた。 雲一つなかった空には、一面に真っ黒な入道雲が湧き起こり、太陽の光を隠していた。 天空のいたるところで紫色の稲光が瞬き、耳をつんざく雷鳴が轟いた。 ぼくが通って来た桜並木は満開のままだったけれど、行き交う人たちは、地面に倒れてピクリとも動かない。 ――みんな、カミナリに打たれたのか? それにしても、ぼくたちだけ、どうして無事なんだ? 「あれ、なに?」 サキが上空を指さした。 サキの指の先、グルグルと回転しながら、上へ上へと立ち上る暗黒の入道雲のてっぺんがちぎれて、丸い塊になった。 その黒い大きな雲の塊は、重力に引きつけられるように、目の前に落下してきた。 雲の塊は地上に落ちると、濃い霧となって一帯に広がった。 「なにも見えない」 灰色の霧に覆われ、視界を失ったぼくたちは身を寄せ合った。 「ん? 霧の中に誰かいる」 目を細めてつぶやくハルの視線の先を追うと、確かにうすぼんやりと一つの影が見えた。 霧は少しずつ濃度を失い、影が人の形になってきた。 ゆったりとした白い服を着たひとりの男。 「あの人、神御衣(かんみそ)を着ている……」 チリがつぶやいた。 ――カンミソって、なんだ? その男は、地面から少しだけ宙に浮き、ぼくたちの方に滑るように進んできた! ――なんだ! 特撮のワイヤーアクションか? 霧が残って、よく見えないけれど、透明なひもで上から釣り上げられているのだろうか? 男の豊かな長い髪の毛が、ライオンのたてがみのように風になびいている。 太い眉毛は凛々しく、がっちりとしたあごの線もシャープだ。 ――強そうでかっこいい。二十歳くらいかな。 遠い昔の人のような服装。 あの服のことを、チリはカンミソって言ったのか。 神世桜五千年祭に呼ばれた役者かな? 「あなたは、いったい?」  ぼくはその男の人に聞いてみた。
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