第2話 三姉妹

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その男は微笑みを浮かべた。 「石敢當が倒れて神力が失われたにもかかわらず、お前たちが意識を失っていないのは、サクヤヒメの力のせいか……。 まあよい。人の子らよ、我の邪魔をするなよ。黄泉から()でる力を得るまでに、五千年の歳月が掛かったが、間もなく朽ち果てた我が肉体を掘り起こし、命を取り戻すのだ」 「あなたは、なに?」 チリが聞いた。 「元は神であったモノの残りよ。さて、我が思いを成そう。イワナガヒメ、イワナガヒメ。我の前に現れてくれ」 スーッと、後方からぼくの横を通って、白いモノが前に出た。 「なに、なに?」 さっきまでいなかった。 それは、羽衣をたなびかせた女の後ろ姿だった。 突然、後ろから声が聞こえた。 「姉さま、行ってはなりません!」 前にいる女が、即座に振り向きもせず答えた。 「出でるな!」 「このひとも、足が宙に浮いている!」  ハルの声に女の足元を見ると、男と同じ様に地面から宙に浮いていた。 「さあ、共に!」 男はそう言って、溶けるようなやさしい微笑みを、その女に送った。 「いったい、なにが起こっているの?」 サキがつぶやき、ぼくたち四人はお互いの顔を見て、男女の方に視線を戻した。 「あれ?」 男と女は、消えていた。 それだけでなく、霧まできれいさっぱりに消え、輝く太陽と青空が戻っていた。 路上で倒れていた人々もいつの間にか立ち上がり、何事もなかったかのように行き交っている。 もう一度、みんなと顔を見合わせた。 「オレだけが、おかしくなったわけじゃないよな?」 ハルが恐る恐る聞いてきた。 「大丈夫。今起こったこと、あたしたちも覚えているから……、ね?」 サキが、チリとぼくに視線を送り、同意を求めた。 ぼくとチリは同時にうなづいた。 「あたしたち、幻を見たのかな?」 チリが不安そうにつぶやいた。 「ちがうぞよ!」 と、三つの祠の方から声が聞こえた。 いっせいに視線を向けると、祠の前に羽衣をたなびかせた女子が二人、立っていた。 足元を見ると、この二人も地面から宙に浮いていた! ――今までのこと、やっぱり現実だ。 さっきの女の人もこのふたりも、祠から出てきた女神さまだ! 
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