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その男は微笑みを浮かべた。
「石敢當が倒れて神力が失われたにもかかわらず、お前たちが意識を失っていないのは、サクヤヒメの力のせいか……。
まあよい。人の子らよ、我の邪魔をするなよ。黄泉から出でる力を得るまでに、五千年の歳月が掛かったが、間もなく朽ち果てた我が肉体を掘り起こし、命を取り戻すのだ」
「あなたは、なに?」
チリが聞いた。
「元は神であったモノの残りよ。さて、我が思いを成そう。イワナガヒメ、イワナガヒメ。我の前に現れてくれ」
スーッと、後方からぼくの横を通って、白いモノが前に出た。
「なに、なに?」
さっきまでいなかった。
それは、羽衣をたなびかせた女の後ろ姿だった。
突然、後ろから声が聞こえた。
「姉さま、行ってはなりません!」
前にいる女が、即座に振り向きもせず答えた。
「出でるな!」
「このひとも、足が宙に浮いている!」
ハルの声に女の足元を見ると、男と同じ様に地面から宙に浮いていた。
「さあ、共に!」
男はそう言って、溶けるようなやさしい微笑みを、その女に送った。
「いったい、なにが起こっているの?」
サキがつぶやき、ぼくたち四人はお互いの顔を見て、男女の方に視線を戻した。
「あれ?」
男と女は、消えていた。
それだけでなく、霧まできれいさっぱりに消え、輝く太陽と青空が戻っていた。
路上で倒れていた人々もいつの間にか立ち上がり、何事もなかったかのように行き交っている。
もう一度、みんなと顔を見合わせた。
「オレだけが、おかしくなったわけじゃないよな?」
ハルが恐る恐る聞いてきた。
「大丈夫。今起こったこと、あたしたちも覚えているから……、ね?」
サキが、チリとぼくに視線を送り、同意を求めた。
ぼくとチリは同時にうなづいた。
「あたしたち、幻を見たのかな?」
チリが不安そうにつぶやいた。
「ちがうぞよ!」
と、三つの祠の方から声が聞こえた。
いっせいに視線を向けると、祠の前に羽衣をたなびかせた女子が二人、立っていた。
足元を見ると、この二人も地面から宙に浮いていた!
――今までのこと、やっぱり現実だ。
さっきの女の人もこのふたりも、祠から出てきた女神さまだ!
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