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『ありがとうございます、見事な魔石ですね……即席の魔術で造られたものとはとても思えませんよ』
「時間をかければもっと大きなものも造れるけれど、指輪ならそれくらいで丁度良いでしょう?デザインは気に入ってもらえたかしら?」
『ええ、勿論ですよ。……では、今度は私が貴女を着飾らせる番ですね』
アルドリックの切れ長の目が細められ、その瞳が朱く輝く。──まずは胸元に、真紅の魔石でできたブローチを。そして、長い黒髪をどうアレンジしてもバランスがとれるようラインに気を配りつつ、真紅のブローチと深緑の瞳が際立つよう無駄な装飾を省いて──
『如何でしょう?……私と貴女が初めて出会った頃に流行していたドレスの様式がベースになっております。最近流行しているものをお望みであればそのように仕立て直しますが』
「ありがとう。……でも、このままがいいわ。二人の出会いから時計の針を進めていくようで素敵じゃない?」
『そう仰って頂けて何よりです。しかし……』
「?あら、自分で作ったドレスに納得がいかないの?」
アデリータの言葉に、アルドリックは首を振って。
『いえ、逆ですよ。……自分で言うのもどうかとは思いますが……此程までに食欲を唆られる仕上がりになるとは思いませんでした』
「……それは……褒められているととってもいいのよね?」
『勿論ですよ』
アルドリックの指が、そっとアデリータの紅い唇に触れる。
『未だ陽も顔を出して間もない時間ではありますが……昨夜『お預け』にされた分を頂いても?』
魅了の魔法でもかかっているのかと疑う程に蠱惑的な声。──高位の魔女であるアデリータに生半可な魔法など効かないが、それでもその乞いを断ることなど出来そうになかった。
「……ええ、勿論。昨夜は御免なさいね、今度は気を失ってしまわないと良いのだけれど」
『そうですね……私にも想定外でしたが、少しずつ慣れていけば良いかと。……無理に意識を保とうとするよりは、快楽に身を任せて頂いたほうが我々にとっては美味な『食事』となりますから』
ちゅ、とアデリータの額に口付けて、腰に手を廻す。昨夜の口付けは魔力を吸い出すためのものだったが、今度のそれは、より深い快楽で魂を溶かし生命の雫を引き出すために。
「ん……」
優しく重なる唇。頃合いを見計らって、アルドリックの紅い舌がゆっくりと唇と粘膜の堺を擦っていく。アデリータがこの行為に弱いのは昨夜既に確認済みだった。案の定、早くもアデリータの表情が蕩け、鼻にかかった甘い声が漏れてくる。
薄っすらと、アルドリックの唇に笑みが浮かぶ。さて、この極上の食材は、どう調理すれば一番美味しく食べられるだろうか。
強請るように薄く開かれた唇の中では、柔らかな舌が快楽に絡め取られるのを待っている。──先ずは、リクエストに応えるべきか。
最初は舌先を絡めるだけ。焦らすように舌を愛撫していると、痺れを切らしたのかアデリータの腕がアルドリックの首に廻されて、より深い快楽を味わおうと自分から舌を入れてきた。
欲望に正直な可愛らしい仮初の恋人に、アルドリックの笑みが深くなる。──ここまで来れば、もう後は溺れるだけだ。
口内に侵入してきた舌を絡め取り愛撫しながら耳に軽く爪を立てると、再び甘い声が漏れた。頬を擦りながら首筋へと指を滑らせ、鼓動に目を細める。ほんの少し爪に力を込めれば、如何な高位の魔女とはいえ命はない。長命ではあるものの脆弱な肉体しか持たない彼女らのことを、どこか愛おしいと感じたのは初めての経験だった。
次にアルドリックは、ベルベットのドレスとサテンシルクの下着越しに胸へと手を伸ばした。一際大きな嬌声が響き、アルドリックの項に爪が立てられる。薄手のベルベットは、その下で物欲しげに自己を主張する胸の頂きの感触を微かにアルドリックの掌に伝えていた。──まずは、掌で擦るように。そして溢れる甘い声と項に立てられる爪が切羽詰まってきた頃合いを見計らって、親指で圧し潰すように刺激する。──が、残念ながら、アデリータが耐えられたのはそこまでだった。
糸が切れたようにアデリータの身体から力が抜けたその瞬間。──一際甘い精がアルドリックの喉を滑り落ちた。
『ああ、やはり』
意識を失ったアデリータが倒れないよう腰に廻したままだった左手で、極上の食材であり、最高の景品であり、そして可愛らしい仮初の恋人であるアデリータを抱き寄せる。
『これまで味わったこともない『御馳走』ですね……私のほうが離れられなくなってしまいそうですよ』
──アルドリックは気を失ったままのアデリータにそう囁きかけると、唇に浮かんだ笑みを深くして、腕の中で眠る仮初の恋人に口付けたのだった。
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