第十五章 五年の月日が流れた

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健吾はさえを誘った。 「あのう、健吾さんに女性がたくさんいても、私、気にしませんから」 「自分には女はいません」 さえは驚きの表情を見せた。 「自分には諦められない女がいます、さえさんと結婚しても、愛することは出来ません、 ですから、さえさんから、この縁談、断ってください」 「その諦められない女性とは、今も関係が続いているのでしょうか」 「いいえ、五年前に姿を消して、まだ消息不明です」 「そうですか、いいですよ、健吾さんがその方を想っていても、ちゃんと私を抱いてくだされば、私は健吾さんと夫婦になりたいです」 健吾は戸惑いを見せた。 「愛のないセックスでよろしんでしょうか」 「構いません」 「しかし……」 「実は私にも愛する男性がいます、堅気の人です、その人とは将来歩んでいくことは出来ません、でも別れることも出来ません」 健吾は黙って聞いていた。 「母はやはり堅気の男性を好きになりました、そして駆け落ちしたんです、でもお爺さまに捕まってしまい、父は帰らぬ人になりました、でも母のお腹には既に私が宿っていました、母は私を生む決心をして、でも父の後を追って命を経ちました、私は彼にそんな想いをさせたくありません」
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