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「恋……なのだと思う。俺は仔空に想いを寄せている」
「……僕もです」
自然と出た返事に、静龍様が嬉しそうに微笑んでくれた。肩に腕が回され引き寄せられる。顎を取られ目線を上へと向けると、唇が寄り添うように近づき合わさった。初めは啄むように。まるで目の前の宝の存在を確かめるかのような慎重な口付け。
存在を確かめ終えると、お互いの舌を絡め合い、深く繋がり合う。ずっと静龍様から甘やかに包み込むような香りが漂っている。香りに充てられたかのように微かに全身が火照り、ゾクゾクと背筋に快感が走る。
「なんて顔をしているんだ」
「や、見ては駄目です」
「もっと見せてみろ。ふっ、ふやけきった可愛らしい顔だ。こんなに香りを振りまいて、俺を誘っているのか?」
「香り……?」
僕からも香りが出ているの? 自分ではわからず、確かめたくなったけれど、静龍様に引き寄せられて叶わなかった。深い口付けを続けられ、クラクラとしてくる。
気持ちいい……。
ずっとこの腕の中で幸せを噛み締めていたい。
今だけは身分の壁を越えてもいいだろうか?静龍様は次期黎家当主であり、皇帝陛下に重用される凄い方だ。でも、そんなこと忘れるくらい目の前の彼に夢中になりたい。愛されたいんだ。手を取ったあの日、孤独だった僕の心を拾い上げたのは静龍様ただ一人だったから。
唇が離れると、お互いの間に銀糸が伝い、プツリと切れた。僕と静龍様の繋がりが絶たれてしまうようで切なくなる。
「俺の仔空」
静龍様が僕の首元に唇を近づけて、項へと口付けを落とした。痺れるような感覚が走り、身体から力が抜けそうになる。微かに火照りが増した気がした。静龍様の体温や香りは僕をおかしくさせる。
もっと欲しい、もっと抱きしめて……と、乞い願いそうになるのだ。
「そろそろ戻ろう」
「……はい」
出来ることならもっと傍に居たい。でも、それは贅沢というものだろう。
「また連れてくる」
気持ちを悟ったかのように言われて、嬉しくなった。自覚した感情が一言交わす度に増していく。手を取られ、馬の元へと一緒に向かう。
この手をずっと離したくない。横目で顔を盗み見ながら、ずっと笑いかけていて欲しいと些細なことを願う。
「静龍様はなにか欲しいものはないのですか?」
「誕辰の祝いなら今貰った。仔空と共に美しい景色を見ることが出来たのだから、これ以上の物は存在しない」
優しい笑みが見つめてくれる。穏やかな闇を閉じ込めた瞳には僕だけが映り、己の瞳にも静龍様だけが映っていた。
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