招き猫のお仕事

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招き猫のお仕事

 私はいつもの定位置で、今日もこの家に幸運を招いている。 「やった!今日は牡羊座が1位だ!ラッキーカラーはブルーだって」  この家のお嬢さん、小学5年生の福田幸(ふくださち)ちゃんは、毎朝出かける前にテレビで必ず占いをチェックしている。 「ブルー、ブルーかぁ……」  ブルーを探している幸ちゃん。  テレビのそばに鎮座する私と目が合った。 「ロシアンブルーもブルーの内、かな」  そう言って、幸ちゃんは私の頭をナデナデして、それから元気よく学校へ向かった。  私は世にも珍しいロシアンブルーの招き猫だ。  日本の伝統的な白い招き猫とは違い、本物のロシアンブルーのフォルムに近い、スラリと美しい造形が自慢。 「おい、調子に乗るなよ?まがいモン」  福田家の家族が全員出かけると、伝統的な白いのが話しかけてきた。 「まがいモンとは誰のことかしら?おデブさん」  この家の主人は置き物を集めるのが趣味らしく、テレビボードの上だけでも熊の木彫りが大中小、エッフェル塔も大中小、マトリョーシカは大から極小まで7体。他にもクラシックカーやら馬の像やら。  招き猫も私の他にあと2匹いる。他の2匹は定番の、ぽってりとした丸いフォルムで、白い方が左手を、黒い方は右手を上げている。  ……私だけで充分なのに。 「口のきき方には気をつけろ。俺はお前を招き猫とは認めてねぇ。なんだそのヒョロっちい身体つきと格好は。両手を上げるなんて下品この上ない」 「これが私。他の個性を認められないなんて心が狭いのね」  家人が知らないところで、私達のトークが繰り広げられる。  まぁ、大体が美しくて可愛がられる私をやっかんで白い方が突っかかってくるので最近ちょっとウンザリしている。 「あの……君もさっき、シロ先輩の事をデブって……」 「あっちが先に私をマガイモノなんて言うからよ」 「あ、はい。すいません」  黒い方はどうにも気が弱い。白いのが一番最初からこの家にいるからと言って「シロ先輩」などと呼んでいる。 「そんな弱気だからお金の入りもイマイチなのよ」 「あ、はい。すいません」 「おい、まがいモン。クロを悪く言うな。お前だって右手も上げてるんだから金運にも貢献してなきゃおかしいだろう?」 「私は学業に貢献しているの。おかげで幸ちゃんはとっても優秀だわ」 「こないだ豊臣秀吉を“とよとみひできち"って読んでたが大丈夫か?」  木彫りの一番大きいクマが、余計なことを言う。 「幸ちゃんは算数が得意なの」 「7×8=52って言ってたよ?」  マトリョーシカまで面白そうに話に加わってきた。 「7の段は東大レベルですから」 「……オマエ、両手上げてるのは手に負えないって事か?」  そう言ってシロが鼻で笑う。 「違うわよ!幸ちゃんはこれから伸びるの!そういうシロはどうなの?人を招くって言っても、このお家では商売をしている訳じゃないのだから、あなたこそ招き猫として役立たずじゃないかしら」  福田家のご主人は警察官。客(犯罪者)は招かれないに越したことはない。 「うるせえ。俺は、こう、全般的な福を運んでるんだ。今日だってお嬢ちゃんの占い一位だったろう?あれは俺の力だ!」  シロが特有の三日月のような腹立つ目でドヤる。 「えっ!シロ先輩、ホントですか?すごい!」 「そんな訳ないでしょ!昨日の占いは11位だったじゃないの」  こうして毎日のように不毛な言い争いが続いている。
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