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招福対決
「毎日毎日、五月蝿いわね!扉越しにも聞こえてちっともゆっくり眠れやしない!」
いつものようにギャーギャーと騒いでいたら、高価な物が仕舞われているガラス扉付きディスプレイ棚の、九谷焼の眠り猫から苦情が来た。
「お前さんは招き猫じゃないからそんなにのんびりしていられるんだ。黙ってろやい」
「黙って欲しいのはこっちなんですけど〜」
眠り猫はムッとして文句を言うと、耳ごと覆って丸まった。
「眠り猫さん、ごめんなさい」
なぜかクロが申し訳なさそうに謝る。
「とにかく、私は両手で福を2倍呼び込めるんだから、エリート招き猫なのは間違いないわ」
「まがいモンがよく言うぜ。伝統的で歴史ある俺の方がご利益あるに決まってる」
話はいつも平行線だ。
「ねぇねぇ、そしたらさ、誰が一番福を呼べるか勝負したらいいじゃん?」
一番小さい子熊が提案した。
「そりゃあいいな!ワシらも毎日うるさいのはかなわん。一番福を招いた猫が一番偉い。それを決めたらもう言い争いっこナシだ。な?」
と一番大きい熊。
「でもどうやって勝負するの……?」
「そうね……福田家の3人、ご主人、奥様、幸ちゃんをそれぞれ一番喜ばせた者が勝ち」
「幸せなんて、数値化できないよ。どうやって勝ち負けを決めるの?」
疑問を投げかけるマトリョーシカ(中)にシロはニヤリと笑う。
「それが、俺たちには数値化できるものがあるんだよ」
そう。
招き猫達が首につけている鈴。
福を呼び込むと、その成果によって鈴が鳴る。
呼び込む方法はもちろん「手招き」だ。
「じゃあちょうど良いや。俺が一丁やってやる。百聞は一見にしかず。とくとご覧あれ」
シロが神妙に目を閉じて集中しているように見える。しばらくすると「カッ」と目を開いて左手をチョイチョイと手招いた。
すると、シロの鈴が小さく「リン」と鳴った。
「……え?なに?なにが起こったの?」
マトリョーシカ(小)がコロコロしながら尋ねる。
「今奥さんにちょっとした福を送ったんだ。奥さんが喜んでくれたから俺の鈴が鳴ったって訳」
「どんな福を送ったの?」
「それは奥さんが帰ってきたらきっと分かる」
「……ねぇ、それ鳴ってるの今まで聞いた事ないんだけど、ホントに仕事してなかったって事だよね?」
「…………」
3匹の招き猫は顔を見合わせた。
「…………や。まぁ。ちょっと疲れるっていうか」
「…………やり過ぎるとヒビ割れちゃうから」
「僕ら一応神だから、お供物もパワーの源っていうか」
モジモジと言い訳する時、一瞬仲間意識が芽生えた3匹であるが、かくして、3匹の福招き合戦スタートである。
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