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奥様とシロ
福田家の奥様。すなわち幸ちゃんのお母さんは、毎日ご主人と幸ちゃんが出かけた後、洗濯物と掃除を済ませてからパートへ出かける。そして、幸ちゃんが帰ってくる前に帰宅し、夕飯の準備に取り掛かる。
この日も奥様は、いつもと同じように15時過ぎに買い物袋を下げて帰宅した。
「ただいま帰りました〜」
奥様は誰もいなくても必ず声をかけて家に入ってくる。
「おかえりなさい〜!」
私達置き物は皆んな、自分達に向けて言ってくれているんだと認識している。だから、「おかえりなさい」といつも返事をしている。
奥様には聞こえないからもちろん返事も無い。けれど会話はできなくても良いのだ。挨拶は返してもらうものじゃなくてしたくてするものだし、何より奥様は私達を大切に扱ってくれる。
「先手必勝!俺から福招かせてもらうぜ」
シロが自信満々に先鋒を名乗り出る。
お手並み拝見といこう。
シロがさっきと同じように念を送って手招きしてみせた。
すると…
ピンポーン
インターホンが鳴った。
「はーい」
奥様が玄関扉を開ける。
「えっ芳子!?」
奥様の驚いたような声が聞こえる。
「慶子久しぶり〜!」
「どうしたの突然」
「仕事で近くまで来たから、驚かそうと思って」
「ホントに驚いたわ。でも嬉しい!元気そうね」
どうやら奥様の友人が訪ねて来たようだ。奥様の声がとても嬉しそうに弾んでいる。
リンリンッ
シロの鈴がさっきよりもハッキリした音で2回鳴った。
「今度は2回鳴ったね?」
子熊が確認で尋ねる。
「うん。シロ先輩が、さっきよりも大きな福を呼んだから、さっきよりも大きな音で鳴ったんだ」
クロが丁寧に子熊に鈴の仕組みを教える。
「まあ、まあ、やるじゃない」
と言ってみたけれど、複数回鈴が鳴るのはかなりの福を呼んだ証拠で、内心焦っている。
「このくらい俺にかかれば朝飯前よ。さっきのデモンストレーションも含めたら鈴3回分だな」
「さっきのも含めるなんて狡いわ!」
「どうせ使える福ポイントは各自限度があるんだ。合わせたって問題ないだろ?お前は一気に全部使ったって良いんだぜ?」
「福ポイントって?」
マトリョーシカ(2番目に大きいの)が聞き慣れない言葉に、首を傾げようとしたが首がないから体ごと傾けた。
「僕たち招き猫は、お供物をもらったり、綺麗に掃除してもらったり……まあ、なにかと人間に気にかけてもらうたびに福を招くための力が貯まるんです。その力のことを僕らは福ポイントって呼んでいるんだ」
クロがまた親切に説明してあげた。
「でも使い方には要注意なのさ。無理し過ぎると、体にヒビが入ったり割れたりするからな」
シロの追加説明に、置き物たちは皆震えあがった。
「ヒビが入ったり割れるとどうなるの?」
子熊が無邪気に尋ねる。
「そりゃあ、そんなことになったら……」
中くらいの熊が言いかけて、止めた。
口にしたくないのはよく分かる。
「……捨てられるのよ」
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