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幸ちゃんとクロ
「ただいまぁ〜」
奥様の友人と入れ替わるように幸ちゃんが帰って来た。
「幸ちゃんおかえりなさい!」
皆んなで出迎える。聞こえてないけれどね。
「幸おかえり。手を洗って来た?ちょうどさっきママのお友達が来てくれて、美味しいお菓子をいただいたのよ。一緒に食べましょ」
「お菓子?やったぁ」
「今日は学校どうだった?占い一位だったけど良いことあった?」
「あったよ!今日の給食、ミルメークの日だった」
「あぁ、牛乳が甘くて美味しくなるやつね?ふふふ。でもそれって、牡羊座だけじゃなく学校の皆そうじゃないの」
「うん!だから、皆喜んでたし良かったなぁって。ねぇママ、このお菓子すごく美味しいね!このジュースも」
「でしょ。そういえば、今日このジュースを買った時、お会計が777円だったのよ」
「えーすごい!ママラッキーじゃん!」
(アレは俺がさっきデモンストレーションした分だぜ)
シロが小声で自慢した。
シロにばかり良い顔をさせておけない。
「さて!次は私が……」
「待って!」
次は私が福を招こうとしかけた時、珍しくクロが強気に割って入った。
「何よ?学業を司る私が幸ちゃんに福を招くのが適材適所ってもんでしょ」
クロは人の話も聞かずに勝手に集中しはじめて、チョイチョイッと手招きした。
窓の外から「ワンワンッ」と犬の鳴き声と「ウワッ」と声がして、誰かが庭先から走って去って行く影が見えた。
「??」
「何か物音がしたような?」
幸ちゃんと奥様はキョロキョロと辺りを見回している。
リンリンリンッ
綺麗な音が3度鳴った。
「えっ?何?何?何が起こったの?」
特に二人が喜んでいるようにも見えず、置き物達はクロの言葉を待つ。
「あの…………今、泥棒に入られるところでしたが、通りかかった散歩中の犬に吠えさせて遠ざけました」
「ええ〜っ!」
置き物たち皆が驚きと称賛を贈る。
「さすが厄除けのクロね!それに、一度に鈴が3回も鳴るなんてかなりすごい福だわ!」
「うん。僕、頑張った。……ちょっと頑張りすぎた」
「え?」
クロがとても疲れたように溜息をつく。
ピシッ!
嫌な音がした次の瞬間、クロの手首から先がポロリと落ちた。
「クロ!!」
コトンという音に奥様と幸ちゃんが気付いて、テレビボードへ近づいて来た。
「あっ!ママ!黒い招き猫、手首が折れてるよ」
「ぇえっ?あらホント。やだ、私、お掃除の時ぶつけちゃったのかしら……。ああ、幸、怪我をするといけないから触らないで」
そう言って、奥様はクロの本体と手首を手に取った。
そのままクロは連れ去られてしまう。
「あぁ……クロの奴、捨てられちまう」
木彫りの中熊が悲痛な声でクロを悼む。
「おとなしいけど良い奴だったな……」
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