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アイと置き物
アイと名付けられたロシアンブルーの猫は、箱からソロリと出て辺りを見回す。
幸ちゃんが抱き上げようと伸ばした手をスルリと抜けて部屋を探検し始めた。
「おーい、ブルーちゃん?」
「しょうがねえヤツだなぁ。今コイツはポイント使い果たしてスッカラカンなのさ。大丈夫。しばらくして福ポイントが貯まればまた五月蝿いくらい喋りだすから」
置き物達があれこれと話に夢中になっていると、アイが、テレビボードの上へヒラリと飛び乗ってきた。
尻尾の先がチョンと当たって、一番端にいたマトリョーシカの一番小さいのが床に落ちた。
「やだー!誰かー!拾って元に戻してよぅー!」
床から叫び声が聞こえるが、木製だから壊れてはいなさそうだ。きっと奥様が気付いて戻してくれるだろう。
それよりも……。
テレビボードの上には所狭しと置き物が並んでいる。その隙間を縫って、猫は興味津々に時折匂いを嗅ぎながらズンズン進んでいく。
怯える置き物たち。
アイは、ブルーの前で立ち止まった。
同じロシアンブルーに興味を持ったのか。
単純に、少しだけ他の置き物よりも前に飛び出ていたから進路の邪魔だったのか。
アイの前足が、ブルーの背中をチョイチョイッと押して振り抜いた。
足場をなくしたブルーは、重力に逆らえず真っ逆さま。
パリン!
「あ」
っという間に、ロシアンブルーの招き猫は床に落ちて粉々になってしまった。
「まがいモン!」
「ブルーちゃん!!」
「おーい!返事しろー!」
ブルーからの返事は、ない。
「ああ……まがいモン……俺が、俺が、粉々に砕け散るぞなんて言ったから」
意外にも、シロが一番ショックを受けているようだ。
「で、でも、ほら、この家の人達は物を大事にしてくれるし!」
「うん。きっとクロみたいに接着剤で直してくれるよ……」
そんな置き物達の願いも虚しく。
かつてロシアンブルーの招き猫だった陶器の破片は、箒と塵取りで丁寧に集められ、ゴミ袋に入れられてしまった。
「……形ある物、いつかは……なんて言うけれど。あっけなかったなぁ」
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