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ロシアンブルーの招き猫
俺は福田家に一番最初に来た招き猫のシロだ。
次にクロが来て、その次に、灰色だか水色だか微妙な色合いのまがいモンがやって来た。
この家のご主人は、生き物を飼うと別れが辛いからと言って、代わりにいろんな置き物で部屋を飾って生活を豊かにしようとしていたらしい。
ところが昨日、ご主人が貰ってきた本物のロシアンブルーの猫が、まがいモンを叩き落として粉々に割ってしまった。
まがいモン自身が招いた福に、やられてしまったってわけだ。
それから。
俺たち招き猫を含めた置き物は全て、ガラス扉付きディスプレイ棚へ引っ越しとあいなった。
ここならば、猫の魔の手から置き物達が壊される心配はない。
これまでここでゆったりと過ごしていた九谷焼の眠り猫は、突然増えた住民達に不満そうだが。
俺としては、埃を被りにくい扉付きのディスプレイ棚に引っ越しできたのはありがたいが、直接手に取ってもらえる機会が減ったのはちょっぴり寂しいってもんだ。
毎日よく喋ってうるさかった、まがいモンもいない。
それについては別に寂しいわけじゃない。
ただでさえ棚の中は狭いんだ。
いなくて、清々するぜ。
……ぐすん。
ばっ、馬鹿やろ。泣いてなんかいねえ。ただの花粉症だ。
リンリンリン
まがいモンを壊した犯人アイは、鈴の音を鳴らしながら歩き回っている。
歩くたびに鈴が鳴る。
前足を、まるで福を招くような形で時々顔を洗っている。
「アイー。ごはんだよー」
福田家の人達は、新しい住人のアイに夢中だ。
まがいモンを粉々にしちまったヤツなのに、そんなことは忘れちまったように見える。
人間てのは案外薄情なんだな。
アイはごはんを平らげた後、リビングを悠々と闊歩し、散策途中ディスプレイの前で立ち止まった。
俺達を眺めていたかと思うと、ニヤリと笑った……ように見えた。
「鈴の音、聞こえてるでしょ?」
アイがディスプレイ棚に並ぶシロとクロに向かって話しかけてきた。
「え!?まさかお前、まがいモンか!?」
「もうまがいモノとは呼ばせないわ。私は今、福田家の皆さんに可愛がられて福ポイントがたっぷりと溜まっているから、今も福を呼びまくっているのよ」
そう言って、また歩きながらリンリンと鈴を鳴らす。
「かわいい〜」
「かわいいわね〜」
幸ちゃんと奥様はアイにメロメロで、そんな二人をご主人も嬉しそうに見ている。
とても幸せそうな福田家の皆。
「勝負は、私の勝ちね」
おしまい
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