スイシン

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 父と母は愛のない結婚した。  物心ついた時から感じていた、両親の冷ややかな空気と苛立ち。我が子に隠すことなく、自分たちの不運を嘆く両親は、アキラたち三姉妹に大きな影響を与えた。  アキラは英輔と付き合っても、結婚まで十年かかった。  イサミは高校卒業後に家を出て、県外に働いているものの、どんな仕事や生活をしているのか、自分から話すことはない。  マコトも高校卒業後に、県外の企業に就職して家を出たのだが、三年後に実家に戻った。男性の話し声が、自分を責めているように聞こえてきて、メンタルを病んでしまったのだ。  なんで、結婚したんだろう。  なんで、結婚しか手段がなかったのだろう。  母は恐らく、小笠原の小さな島から出たかった。  父は時代と世間体もあって、独身であることが許されなかった。 ――そして、父は男の子が欲しかった。  自分の名前がアキラ、次女がイサミ、三女がマコトという、男女ともに使用できる名前が、父の未練を露骨に象徴している。 『アキラはブサイクだな、本当に女の子か?』 『かわいそうに。足が太いせいで、制服のスカートが似合ってないな』 『あ? 化粧なんかすんなよ。色気づくな、気持ち悪い』 『なんだ、その瞳は? 人の人生に寄生しているブタが、人間様に盾突(たてつ)くんじゃねぇっ!』  アキラの学生時代は、毒親という言葉がなかった。  厳しい言葉と暴力の裏には愛情があると信じられて、我が子の幸せを第一に願っているという幻想が蔓延し、父の外面の良さもあって、誰もアキラの訴えに耳を貸すこともなく、反抗期みたいなものだと一顧(いっこ)だにしなかった。 『俺は被害者だ。結婚なんかするんじゃなかった』  アキラを含めた姉妹たちが成長するごとに、源蔵は汚物を見るような眼で娘をみて、家に一人も味方がいないことを大げさに嘆いて見せる。 『離婚しないのは、お前たちのせいだ。お前たちが生まれてこなければ、お前が男だったら、男の子が生まれてくれれば』 『結婚すれば、何とかなるとおもったのに、だまされた。もう帰る実家もない。お前らのせいで、俺はずっとこの家に囚われるんだ』 ……あぁ、なんで母は、離婚しなかったのだろう。  母の遺言には『自分が死んだら、父島(故郷)の墓に納骨して欲しい』という(むね)(つづ)られていた。  そもそも父と一緒の墓に入りたくないのなら、生きているうちに別々なって欲しかった。    
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