寝室のおつきさま

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 11月23日。  私達は、案の定変わりない一日を過ごした。  その日は祝日で二人ともお休みだったから、近くのショッピングモールで買い物をして、お昼ご飯にお蕎麦を食べて、公園をプラプラ歩いて、家でコーヒーを飲んだ。  それでも往生際が悪い私は、夜ご飯はちらし寿司にして、チーズケーキまで作った。  だけど彼は「美味しい」と笑ってパクパク食べるだけで、祝おうとする気配がない。  ちょっとだけ、どつきそうになった。  その上稔は夕食後、今朝宅配便で届いた何かを寝室に運んで、そのまま籠もってしまう有り様。  趣味の模型でも買ったんだろうか。  何も今日、私を一人にすることないのに。  今度こそ、ガッカリした。  別に、ティファニーのネックレスや海外旅行が欲しいわけじゃない。  ただ一緒に居て、「一年経ったね」「これからもよろしく」と笑い合えれば充分なのに。  ふて腐れるようにしてお風呂に入り、稔の居る寝室に入った時。  いつもとは違う空間に、目を見開いた。  寝室中に溢れる、穏やかな光。  「稔……?」  壁際のベッドサイドには、ダークブラウンの小さな本棚と、その上には直径30cmくらいの球体状のライトが置かれている。 「どうしたの? これ」  稔は小さく微笑んで言った。 「一昨日、志穂が本読んでる時にネットで買った。本棚、組み立てるの意外と時間かかって」  照れ臭そうな稔に、胸がいっぱいになり涙腺が緩む。 「お月様みたい……」  黄みがかった柔らかい白い光は、お月様のようにこの空間を温かく包み込む。 「これでゆっくり読書できるよ」  満足げに笑う稔を見て、思い出した。  そうだ。稔は記念日には無頓着だけど、私に対しては無頓着なんかじゃない。  いつだって私の話に耳を傾け、私に必要なものを見つけてくれる。 「ありがとう、稔」 「こちらこそ」  稔は淡々と、飄々と、でもとても優しく言った。 「いつもありがとう」  私は今度こそ涙を我慢できずに、それでも一生懸命微笑んだ。 「こちらこそ、ありがとう」  私達はベッドに腰かけ手を繋いで、しばらくの間、寝室のお月様を眺めていた。 「月が綺麗ですね」  そんな冗談を言いながら。         【おしまい】
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