勇者よ、来い! ……いや、来るな!

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 ん?  室内の扉が開いた。  ――ついに勇者が来たのか?  室内に入ってきた一人の男。背が高く、がっしりとした体つきで、瞳に鋭い光を携えている。いかにもそれっぽい。  だが……  (ひげ)は伸び放題で、肌は褐色。いい具合に日焼けしたきれいな色ではない。(あか)がたまってそうなったとしか思えない、汚い色だ。  身に着けている(よろい)や衣類には、赤みを帯びた黒いものが、あちこちに付着している。血痕だろうか。  おまけに、泥のようなものも所々に付着している。  男の周りを飛んでいる小さいものは、(はえ)だろうか?  男の体を()い回っているものもまた、蠅なのだろうか?  男の体からは、変な臭いまで漂ってきている。  まさか、これが勇者なのか?  敵と戦っていれば、返り血をはじめとした体液を浴びることもあるだろう。  ここに来るまでにぬかるみにはまったり、考えたくはないが、獣から(ふん)を浴びせられたこともあるかもしれない。  だが、いくらなんでも、汚すぎないか?  ……嫌だ。これが勇者だとしたら、私はこんな奴に握られたくない。
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