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 彼女と初めて会ったのは、中学2年生の夏休みだった。  夕方、塾からの帰り道、家の近くの踏切で待っていると、横から声をかけられた。 「きみ、ちょっといいかな」  僕よりも少しだけ背が高い女性だった。つい先日、盆の集まりで会った大学生の従姉よりも幾分年上に見える。25歳くらいだろうか。 「このあたりに、コンビニってある?」 「コンビニ、ですか」  不信感を抱きつつもそう答えてしまったのは、彼女の僕を見る目がとても優しかったからだ。 「たしか、この踏切を越えて左に行くと、何個目かの交差点を曲がったところにあったと思いますけど」 「ほんと? ねえ、一緒についてきてくれない? わたし、方向音痴ですぐに迷子になっちゃうの」 「でも、近くまで行けばすぐに分かると思いますよ」  この辺りは区画整理された住宅街で、枝分かれするような道はほとんどない。そのうえ、南北の移動はずっと坂になっていて、方向感覚を失うことはまずありえない。 「お願い! 途中まででいいから! それとも、行先は逆だったりする?」  このとき、咄嗟に嘘をついたらよかったのだが、僕は反射的に「いえ」と答えてしまい、断ることができなかった。
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