最終章

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最終章

暑い夏が過ぎ、爽やかな風がそよぐ秋になっていた。 彩香のお腹の中に芽生えた新しい命は、すくすくと育ち、しっかりと胎動を感じられるようになっていた。 ただ、充夫の体調はどんどん悪化し、ただでさえ細い体は、益々細くなり、顔もかなりやつれてきて青白い。 神様は、新しい命と引き替えに、充夫の命を削っている。 何でこんなに人生は過酷なのだろう。 私達は、やっと再会してまだ1年、たった1年しかたっていないのに。 あっという間に、冬になり、外には雪が舞い始めた12月。 大きなお腹を抱えて、今日も病院のベッドに寝たきりの充夫を訪ねる。 12月24日 クリスマスイブだった。 一番辛い瞬間を迎える。 「僕の命は、彩香のお腹の中にいくからね。」 充夫は最後にそう告げて旅立った。 翌、12月25日 彩香の陣痛が始まり、元気な男の子が産まれた。 親戚は、充夫のお通夜を執り行っている。 産まれたばかりの赤ん坊の顔を見て、充夫はちゃんとこの子の中で生きていると確信した。 対面させてあげたかった。 いっぱい遊んであげて欲しかった。 この子は、1度もパパの顔を見る事なく育つ運命なのだ。 でも、パパの生まれ変わりだから、1文字もらって 充哉 と名付けよう。 充哉は、双方のおじいちゃん、おばあちゃんに大層可愛がられて、すくすくと育ち成長した。 翌年からは、彩香は、毎年、12月 24日のクリスマスイブには、心を込めて、ケーキを作るようにした。 1日早い、充哉の誕生日も兼ねて、ろうそくを立てる。 大きなパステルカラーの花束を添えて、写真の中の充夫に報告する。 彩香は、生涯、充夫だけを思って生きた。 全ての愛を充哉に捧げて生きた。 ようやく、20歳を迎えようとしている充哉は、本当にパパそっくりだ。 今日も写真の中の充夫に語りかける。 充夫は充哉の中でちゃんと生きている。 でも、それでも、やっぱり あなたに会いたい。 もう1度、あなたに会いたい。
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