初めての出会い

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初めての出会い

彩香が充夫と初めて出会ったのは、高校3年のクリスマスイブだった。 珈琲が大好きな充夫の行きつけの喫茶店、よっくもっく が、クリスマスパーティーの貸し切り会場だった。 男女4人ずつ 8人で集まった クリスマスパーティーだ。 卒業間近のパーティーだから、今夜だけは無礼講と、皆で、ハイボールも飲んで羽目を外した。 彩香にとっては、充夫は、優しく話しやすい友達の位置付けだった。 彩香の本命は、充夫の友達の、 勇輝だった。 勇輝も、彩香が気になっている。 若い2人はあっと言う間に仲良くなって意気投合している。 「何か飲み過ぎてひどい。 ちょっと夜風にあたってくるわ。」 と店の外に出る。 粉雪が舞って、道には雪が積もっていた。 ホワイトクリスマスだ。 彩香に続いて、勇輝も出てくる。 「彩ちゃん、大丈夫?」 覚えたての呼び名で言われた。 「うん。大丈夫。」 ほてった顔に雪が舞い、冷たさで少しだけ酔いが冷めていく。 何だか、雪と、ハイボールの相乗効果で、魔法にかかったように ふわふわしていた。 寄り添っている、勇輝の顔がすぐ傍にあった。 咄嗟に、2人は抱き合って、キスをしていた。 その日から、彩香と勇輝の付き合いが始まった。 充夫も密かに彩香に好意を抱いていたが、なかなか気持ちは届かない。 彩香は、クリスマスパーティー以来、よっくもっくが気にいって、度々顔を出していた。 時は、3月に入り、もうすぐ彩香の誕生日だ。 彩香は、3月3日のお雛様生まれだから、結構皆に誕生日を覚えて貰える。 3月2日 今日も、彩香は、よっくもっくに来て、珈琲を飲んでいた。 勇輝と喧嘩して、明日の誕生日はどうやら、ぼっちで過ごす羽目になりそうだ。 ほどなくして、充夫もやってきた。 「あれっ、珍しい。 春休みは、勇輝とデート三昧じゃなかったの?」 「喧嘩したの。」と、彩香は、ふてくされている。 「明日って、彩香ちゃん、誕生日だよね。」 「そう。よく覚えてくれてたね。」 「お雛様だから忘れないよ。」 「皆そう言うの。 でも、そのわりには、誰一人祝ってくれないのよ。」 翌3月3日 彩香に、充夫から電話がかかってきた。 「誕生日おめでとう。 で、勇輝とは仲直り出来た?」 「出来てないよ。 勇輝、結構強情だから、全く連絡してこないよ。」 「じゃあ、僕が祝ってあげるよ。今から、学の家に来れる?」 「いいよ。」 学は、彩香の元カレの友達で、充夫の友人でもあった。 学の部屋に入ると、 火燵テーブルの真ん中に、バースデーケーキの箱が置かれていた。 ピンクの包みに、赤いリボンがかけられている。 彩香がその包みを開くと、 大きなバースデーケーキが出てきた。 彩香の大好きな大粒のいちごがいっぱい乗っかっている。 ど真ん中に、 Happy birthday to Ayaka と書かれたチョコプレート迄乗っている。 ろうそくもちゃんと18本付いている。 「えっ、もしかして、吉川君が買ってくれたの。」 彼は黙って微笑んでいる。 この、ささやかだが、心のこもった充夫からのバースデーは、 彩香の心に心地良く響いた。 でも、充夫の、男としての思いは、やはり、彩香には届かない。
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