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再会
彩香、充夫、共に38歳になっていた。
高校生の頃、18歳で初めて出会って20年の月日が流れている。
彩香は、一人暮らしの準備の為に暫くは、実家に身を寄せる事にした。
一人は、耐え難い位寂しく辛かった。
たまには、娘の紗綾香に会う事は出来るが、この先のまだまだ長い人生を女一人で生きていくには、どうしたらいいのか。
一生食べていける仕事探しは、勿論だが、空っぽになってしまった心の修復をどうしたらいいのか、
彩香にはなす術が無い。
私は、本当はどう生きるべきだったのだろう。
そもそも、勇輝と若くして、結婚してしまった事からが間違った選択肢だったのではないだろうか。
今更どれだけ後悔しても、人生はゲームのようにリセットは出来ない。
誰と結婚していたら幸せになれたのだろう。
彩香は、学生時代に付き合った人も含めての自分が今迄愛してきた人達の顔を思い浮かべていた。
ふと浮かんだのが、吉川 充夫
の優しい笑顔だった。
彼は、いつも、さりげなく私の傍にいてくれてた。
勇輝と喧嘩した誕生日にも、彼がバースデーケーキを買って祝ってくれたあの日。
懐かしいあの日が、脳裏に甦る。
充夫は今頃どうしているのだろう。
勇輝と充夫はかつては仲良しの友達同士だったが、あんな形で、
彩香と勇輝が結婚してからは、音信不通になっていた。
充夫の気持ちを知りながら、結局、最初から最後迄、彼の優しさを踏みにじるような形になってしまった。
一旦、彼の顔が心の中で甦ると、彩香はいてもたってもいられなくなった。
かと言って、彼には既に別の幸せな家庭があるのだ。
私に今更何が出来るというのだろう。
彩香は、充夫が離婚した事を知らずにいた。
そうだ。
よっくもっくはまだやっているだろうか。
彩香は、20年ぶりに足を運んでみた。
あった。
多少、建物は古びた気はするが、
ちゃんと店に灯りがついている。
彩香は、店の扉を開けた。
カランコロンのこの音も昔のままだ。
夕刻のこの時間は、大概、マスターとママが並んで立っている。
皆、年をとっていたが、その顔を忘れてはいなかった。
そして、カウンターの奥にすわって、真っ先に彩香の顔を見たのは、充夫だった。
時がタイムスリップしたような
偶然の再会の瞬間だった。
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