Ⅶ.亡国

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Ⅶ.亡国

 結局、私の部屋は新たに用意されることはなかった。  城の中を自由に動けるようになると、なぜラギウスが頻繁に訪れるのかがわかった。正室の部屋だと言われるだけあって、隣には彼の部屋があるのだ。城にいる間、ラギウスはしょっちゅう私の元を訪れる。窓辺の長椅子に腰かけていると、すぐ隣にラギウスが座る。  皇妹殿下との縁談はなくなった、殿下は隣国に望まれて嫁がれることに決まったと言うので、この男でも失恋するのかと驚いた。 「……何か言いたげだな」 「いや、気落ちしなくてもいいと思って。その、名だたる将軍なんだし、顔もいいし」 「其方は何の話をしているんだ?」  上手く言葉を返せないでいると、ラギウスは私の言葉の真意を汲み取ったのか、ひどく不機嫌な顔をした。  彼の肩にはフィビュラが付いている。外出の際にはよく身につけているようだ。今日は皇帝陛下との会食だったと聞いた。  フィビュラの宝石の青を見ると、胸の奥がチリチリと痛む。あどけない王子の笑顔が瞼の奥に浮かぶ。 「私を……恨んでいるか?」  ラギウスの声にどこか切ない響きが籠もる。 「……恨まないと言えば、嘘になる。でも、騎士ならば皆、自分よりも守るべきものがある。ラギウスは自分の大切なものを守った。私は守れなかった。ただそれだけだ」  城の中を歩くうちに、多くの噂話が耳に入るようになった。  リンツァは破れ、王族はことごとく自決した。西方諸国は、皇国への従属を誓ったという。もはや、祖国はどこにもないのだ。  胸の奥底に湧く悲しみや憎しみにのまれないようにと、強く唇を噛んだ。  ラギウスが私の肩を抱く。 「私を恨め。そして……、生きろ」  いつのまにか、瞳から溢れ出た涙が頬を伝う。静かに頬に唇を寄せた男は、そっと私に口づけた。どうして拒めないのだろうと不思議に思う。唇からは涙の味がする。 「塩辛い」 「……そうだな」  ひどく優しい声を聞きながら、私は体の力を抜いた。ラギウスは私を胸の中に引き寄せる。  揺れ動く波のような心を抱きしめたまま、あたたかい腕の中で静かに目を閉じた。         【 了 】 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・ 🌟お読みいただき、ありがとうございました。二人の今後は、来年折を見て書けたらと思います!
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