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「姫、お幸せに……」
いつからだろう……?
時々、私に語りかけてくる声が
聞こえるようになったのは?
「桜子? 桜子? どうしたの」
心配そうに声をかける健二。
「え?あ、ごめんね。なんだっけ」
「何度呼んでも返事してくれないからさ
どうした? 桜子にしては珍しいな」
「あ~、なんでもないよ。それより、この前
昭君にばったり会った話したでしょ?
それで、それからまた、偶然会ってね。
華ちゃんと健二さんも入れて四人で食事でもどうかって思ってて」
「ほ~、昭君と再会したのね~。偶然に?」
「なにその言い方? なんか感じ悪いん
だけど」
「いや、別に深い意味はないんだけどね。
ところで桜子、この前の地元の歴史資料館の取材はどうなの? 順調?」
「うん。一応順調かな。でも資料集めには
もう少し時間がかかるから、これからはちょこちょこと地元に帰るかな」
「ふ~ん。そうか、ご両親も喜ぶんじゃないの?」
「まぁ、そういうことになるのかな?」
「泊まり込みとかで取材すればいいのに」
「帰省してってこと? それじゃ健二さんが
寂しいんじゃないの?」
「俺は、寂しくないよ。桜子が帰省しようが他の男に会っていようが」
「なに、シレっと言ってるの?」
「ははは、冗談だよ。冗談。俺は大人の男だからね」
と健二が微笑んだ。
その日の夜……。
「姫、その手首のあざはお怪我ですか?」
「これは、怪我ではない。我が家は代々、
手首に『桜の形をしたあざ』をもつ
女子(おなご)が生まれてくる
ことがあるそうじゃ」
「そうでしたか……」
「昭之助、夕暮れまでに城に戻らねば
ならぬな」
「はい。では、姫、振り落とされないように
私にしっかりとしがみついていてください。」
馬がかける音がする……。
そして、あなたからは、力強い鼓動が聞こえる。
あなたの広い胸の感触を私は忘れない。
誰かが私に話しかけてくる……。
桜子がゆっくりと目を開けた。
「今のは、夢? やけに生々しい夢だった」
彼女はベッドから起き上がると、部屋のカーテンを開いた。
夜空には星々が光り、遠くには街灯に照らされた咲き乱れている夜桜が見えた。
「もうすぐ散ってしまうのか。切ないな……」
と桜子は呟いた。
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