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いつもの新生児の泣き声で目を覚ます。
それは、明け方近く。積もった雪が藍色を讃え、橙色に輝き始める時間の少し前。
ぼくは少しでもその声が聞こえないようにと、毛布ごと強く頭を抱えた。
助けを求めるような泣き声、この世に生まれ堕ちた悲哀を泣き叫ぶかのような啼き声。
酷く、耳障りだ。
「ザルコ、起きろ」
老人ガルディが僕を力無く小突いた。仕方無くぼくは、起き上がる。頭が重い。脳みその芯まで憂鬱が詰まっている。
ガルディも眠そうな様子で、おぼつかない手つきで着替えを始めている。
「『コウノトリ』が来た。準備しろ」
「分かった」
うなずいてベッドから抜け出す。寒さに顔をしかめながらブランケットを羽織り、いくつか咳をして、目の前にある台所に立つ。
新生児の泣き声が響く中、かまどに小さく火を付ける。小鍋を温める分、それだけでいい。
鍋に山羊の乳、それと紅い茶葉を入れて火にかける。少し待てば、茶葉から色が染み出して、香りがふわりと立ち昇る。
待っている間に着替えを済ませ、ガルディの渡してきた薬を凍りかけの水で飲み下す。えぐみと苦味が口と喉に張りついて、水の冷たさも相まって体が勝手に震えた。
自分とガルディのカップに温めた乳を注ぎ、残りは水筒に注ぎ、毛皮でくるむ。これで多少は長く熱が保つ。
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