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ガルディが受け取ったカップを息で少し冷ます。この時だけ、眉間に寄った皺が少しだけ緩む気がする。少しすすって、激しく咳き込んだ。
「ガルディ、薬」
渡そうとすると、手で遮られた。そのまましばらく咳を続けて、治まった頃に絶え絶えの息で答えた。
「おれは要らん。それは不味すぎる」
本気で言っているのかは分からなかったが、ガルディが極力薬を飲みたがらないのは知っていたので、ぼくは大人しく薬を下げた。
赤ん坊の泣き声が止まない中、熱い乳を可能な限り素早く飲み切り、熱が体内に溜まった状態で外に出る。
見慣れた森の風景が目に入り、次いで見慣れたバスケットが目に入る。
玄関の前には、木のバスケットに入った赤子が置かれていた。『コウノトリ』の“贈りもの“。かつての呼び名は、神の祝福。一転して今は、世界の呪い。
呪い。誰に対してのだろう。
ガルディはバスケットの取っ手を掴んで持ち上げると、毛布をバスケットの中に突っ込む。多少なりとも泣き声のやかましさを緩和するためだ。
『コウノトリ』の新生児は、何か食べ物を口にしない限り泣き止むことがない。分かりきっている。腹が減ったといって泣いているのだ。人間的だ。人間なのだから、当然だ。
だが、今から谷へ投げ捨てに行くものへ食い物をやるような懐の余裕をぼくたちは持ち合わせていなかった。
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