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「おまわりさ〜ん!メリー!クリスマス!」
そう叫びながら、不審者サンタクロースは両手にバッテリー式のチェンソーを掲げて、田中翔太に襲いかかって来た。
「キャッホー!」
ブルルルルルールーン!
バッチーン!ボキッ〜!
「ギャアー!」
田中は何が起こったのか、一瞬わからなかった。
サンタクロースが倒れたのだ。
どうやら、歩道と車道を区切るガードフェンスを飛び切れなくて、右足を引っ掛けた拍子に倒れたら足を折って、顔面は歩道に強く打ち付けたらしく、それと同時に、チェンソーで自分の右腕を落とし、首を少し斬ったらしい。
それでも、サンタクロースは諦めきれないらしく立ち上がる。
鼻と首と右腕から血を吹き出して…
「プッ!」
その様子を見て、極度の緊張から、いきなり解放された田中は一瞬、吹き出してしまった。あまりにも鈍臭いサンタクロースに、そして同情してしまう。
「大丈夫ですか?」
弱々しく立ち上がる不審者サンタクロース。
これ以上の攻撃して来るのは、考えにくかった。
田中翔太はまるでスプラッター映画を見ているよな錯覚に陥いる。
「いった〜!あー、失敗したぁ〜!」
しかし、このサンタクロースも、映画からヒントを得て、この犯罪を起こしたんだろうなぁ。
ポタッ…ポタッ…ポタッ…
?
どうやら、このサンタクロースの負傷はそれだけではなかったようだ。
「ぐはっ。」
サンタクロースは口から血を吐いた。
残っている左腕で、拳銃を取り出している時、サンタクロースのコスチュームがはだけた時にナイフが、男の胸に刺さっているのが見えた。
カチャ…
田中翔太の額にデリンジャーが突きつけられる。
「油断したな。おまわりさん。」
血だらけの痩せたサンタクロースが笑う。
まだ若い警官は、突然突きつけられた現実に、小便を漏らした。
「許してください…」
そう言うのが、やっとだった。
(死んじゃうのか…俺…まだやりたい事…)
バキューン!
寒空の246に銃声が木霊する。
「おい、田中、しっかりしろ!」
田中翔太は隊長の声で目覚める。
よくある事だが、安物の不正拳銃だったおかげで、バレルが詰まり、拳銃が暴発、撃った本人の腕を破壊する事になったようだった。
不審者サンタクロースも奇跡的に、致命傷は負っていないらしく、救急車に運ばれたらしい。
田中翔太は要点を事務的に話す隊長の目を見て、はっきりこう言った。
「隊長。私、警官はもう辞めます。」
大音響でマライヤキャリーの「恋人たちのクリスマス」が流れる。
クリスマスにたくさんはいらないの
欲しいのはただひとつだけ
クリスマスツリーの下にあるような
プレゼントなんてどうでもいいの
エンドロールが流れ始めると、残ったポップコーンを一気に口に入れ、太ったオッサンが
周りに聞こえるように、独り言を言った。
「クリスマスに悪い事考えちゃ、ダメって事だよ。」
おわり。
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