第四章 SOSの調べ

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 怖かった。なぜなら証拠がないから。根拠の薄い、いい加減な推測で事を荒立てることはできればしたくない。だから今日、一華と今後の進め方を話し合う予定だった。でも今、一華は、いない。この作りかけの推論で戦う以外に方法はないようだった。  決意を固めて相手の目を見据える。なぜか鼓動が早くなる。深呼吸をする。 「倫太郎が通学カバンにつけていた戦闘機のストラップが虹の森公園で見つかった。当初僕たちは、倫太郎の手の甲に書かれていた『ニジ』は洋菓子店のアルクエンシェルを意味していて、倫太郎はアルクエンシェルに向かうために文殊寺の階段を使ったと解釈していた。でもそれはストラップが虹の森公園に落ちていたことと矛盾しているように思えた。逆を言うと、もしかしたら『ニジ』の解釈が間違っていたのかもしれない。『ニジ』はアルクエンシェルのことではなく、虹の森公園のことだったとしたら?」  突然のことに千尋は一瞬だけ困惑したようだったが、すぐにこちらの真剣な雰囲気をつかみ取って顔を固くした。やや怒っているようにも見える。僕はそんな彼女の目を見ていられなくなって、相手の首元辺りに視線を移した。 「八雲塾の倫太郎のロッカーの中から、不可解な定期テストの問題用紙が見つかった。詳細は省きますが、結論から言うとそれは流出した未完成の問題用紙である可能性が高い。僕らはこの二つのことをきっかけに、倫太郎の事故――とされている件は、倫太郎が何者かの不正を摘発しようとしたところを妨害された結果に起きたんじゃないかと疑った。つまり、倫太郎は単に階段で転んだわけじゃないってことだ」  一度言葉を切って相手の表情を盗み見た。ここまで言えば何を伝えたいかわかるはずだが、千尋はずっと無表情を保ったままだ。何を考えているかわからなくて怖さも感じる。 「そこで古屋先生に依頼して過去の成績を見返してもらい、得点の上昇時期や上昇率、得点の安定性、偏差値などを検めたところ、容疑者として三人の生徒が浮上した。二年の石島先輩、三年の高坂先輩、そして東堂先輩。あなただ」  成績を盗み見たのも、それを解析したのも古屋ではなく僕だが、普通に犯罪だし、一華の立場まで危ぶまれる可能性があったので適当にごまかした。  データが保存されていた試験は、主に中間テスト、期末テスト、実力テスト、その他小テストだった。千尋と高坂のスコアが上昇し始めたのは二年前の冬の中間テストだった。それから期末テスト、春の実力テストを経て段階的にスコアを上げ、成績上位者の仲間入りを果たしている。いきなり成績を上げると怪しまれると思ったのだろう。高坂に関してはかなり成績が低い状態からの上昇だったので、わかりやすかった。  石島の得点が上昇したのが昨年の初冬。千尋・高坂と違って段階を経ずに一気に得点を上げている。どういう経緯でそうなったかは不明だが、その時期から千尋・高坂と共謀したものと思われる。
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