第四章 SOSの調べ

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 もちろんこの上昇時期や上昇率だけで犯人を特定するのは無理がある。実際、他の生徒にもある時期から著しく得点を伸ばしている者はいた。次に注目した数値は、得点が上がり切ったあとの得点の安定性。スコアが上がり切ったあとの三人の総合得点は、平均846点、プラスマイナス10点以内の変動しかない。全科目合わせるとトータルで900点。つまり2.2%の変動しかないわけだ。仮にこれを100点満点の試験に換算すると、毎回の試験で92~96点の得点を取り続けていることに相当する。成績上位者三十名にしぼってこの値を比較しても高坂・千尋・石島の安定性は頭一つ抜けている。   得点がコンスタントであるのはそれだけで不自然だった。例えば、ある科目の試験でコンスタントに94点を取ったとしても、試験の難易度によってはその得点の価値が変わる。要は、得点は安定している反面、偏差値はかなり変動したということだ。試験の難易度のわりにスコアを取りすぎてしまっているものが多数みられたわけだ。  数学に関していえば、最終的な得点の偏差値だけではなく、個々の問題で見てもその傾向は見られた。みんなが間違えているのに、うっかり解けてしまっている問題が多数見られたのである。これも判断材料の一つになった。 「辻褄の合う解答は一つしかない。おそらくあなたたちは試験問題のデータを事前に入手する方法があり、それを用いてスコアを上げた。けど、それを倫太郎に知られた。どういう経緯で知られたかはわからないけれど、倫太郎は盗撮が趣味みたいなもんだから、ひょっとしたらそれで何らかの証拠を押さえられたものと想像している」  この証拠とやらを押さえられたら本当は一番良かった。でも現状それは見つけられていない。千尋たちが発見しておさえているかどうかも不明だったが、こうして一華を拉致していることを考えると、まだ誰の手にも渡っていないと考えるのが妥当だろう。 「摘発される前に倫太郎を虹の森公園に呼び出して交渉を試みたものの、決裂。そこで何らかのトラブルがあり、倫太郎は頭部を損傷して意識を失った。あなたたちは事故に偽装するために、倫太郎を文殊寺の階段の下へと寝かせ、倫太郎が所持していた通学カバンや傘を、転落事故と錯覚するような適当な位置に放置した」  転落位置と所持品の位置に食い違いがあったのも、これで説明ができる。傘やカバンはあとから置いたのだ。つまりあれは転落事故ではなく転落事故に見せかけた傷害、あるいは他の事故だったということだ。よって、転落しかけている猫をキャッチしようとした、という最初の推論は間違っていたというのが、最終的に僕が出した結論だった。 「そのような偽装工作で周囲の目を欺きつつ、あなたたちは倫太郎が意識を取り戻す前に、倫太郎に押さえられた証拠を回収しようと躍起になった。回収したかった証拠というのは、おそらく決定的なことを口走っているシーンを盗撮したデータかと疑っている。あとは倫太郎が持っていた問題用紙も回収しておきたかったんじゃないかな」  不法侵入や窃盗など、彼らが起こした行動のリスクを考えると、回収したかったものは問題用紙だけじゃなかったはずだ。流出した問題用紙だけならば証拠能力としては低いし、しらばっくれればまだ何とかなる。個人特定できるような強力な証拠がどこかに存在し、それを探していたというのが有力な説だった。
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