34人が本棚に入れています
本棚に追加
「ドのところを黒くし、レのところを白にすると、どうなると思いますか」
ノートのスペースにフリーハンドで五×五の格子を書き、ドに相当するところを黒く塗りつぶす。本当は定規を使って線を書きたかったが、今はこだわりを捨てた。現れた図を再び千尋に見せる。
「原理はファックスといっしょです。まあ、僕はファックスを使ったことはありませんけど。これは地図記号の寺を示すメッセージだ。文殊寺以外に考えられない。イチカは、文殊寺の敷地内か、あるいは文殊寺の近くにいる。先輩、イチカを解放してください。おそらくイチカを拉致したのは高坂先輩か石島先輩だ。そうでしょう?」
相手の目をまっすぐに見据えてそう尋ねると、それまでずっと無表情で聞き役に徹していた千尋は、ふうっと息を吐いて脱力した。そして、あきらめたようにこう言った。
「完敗。お見事」
しらを切られたときのプランを用意していなかったので、その言葉を聞いて安堵する。
千尋の華奢な肩から、重そうな通学カバンが灰色のアスファルトの上にどさりと落ちる。そのまま彼女も糸の切れた操り人形のように地面に膝をつき、虚ろな視線をこちらに向けた。
「でもごめん、信じてもらえないかもしれないけど、イチカのことは私も知らない。おそらく石島の単独行動だ」
はぁー、とため息が彼女の口から吐き出された。それはとてつもなく重く、とてつもない疲労を帯びたため息だった。その表情はまるで明日地球が滅ぶと言わんばかりの絶望に染まっている。はぁー、と再び重苦しいため息が彼女の口から吐き出され、その場の空気を澱ませた。
「しっかりしてください」
明らかに弱っている彼女に、僕は容赦なく言った。
「あなたがこれまでどんな気持ちで罪を犯してきたのかはわかりません。もしかしたら、何か事情があったのかもしれない。でも今はそんなことどうでもいい。苦しむのはイチカを助けてからにしてください。あなたが始めた罪が、めぐりめぐって今、無関係のイチカに危害を加えようとしているんだ。広がり続ける罪に決着をつけるんです」
地面でへばっている千尋の腕をつかみ、力いっぱい引き上げる。彼女の身体はとてつもなく軽かった。
「ほら、立って! 早く!」
千尋はよろよろと立ち上がる。彼女の骨ばった手を取り、借りていたモスグリーンのシャープペンシルを強引に握らせた。
「急ぎましょう。イチカが危ない」
最初のコメントを投稿しよう!