終章

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 その後、私は歩を連れて外に出た。歩にしては珍しく先んじて外出の用意をしていたらしく、特に待たされることもなくすぐに出発できた。目的地は倫太郎が入院している病院である。   バス停でバスに乗り、がたがたと揺られながら病院の最寄り駅に向かう。バスの中に人はおらず、静かだった。バスの降車時、運賃を払っているときに運転手とたまたま目が合う。カップルに間違えられたかな、と考えるとちょっと恥ずかしかった。  入口の自動ドアをくぐって院内に入ると、クーラーの冷気で身体が冷めていく。ナースステーションで名前を記入し、倫太郎のいる病室へと向かった。   病室は四人用で、ベッドが左右に二つずつ設置されており、それぞれ薄青色のカーテンで仕切られていた。一番奥のベッドに近づいてカーテンをしゃっと開けると、寝そべって漫画を読んでいた倫太郎がびくりと反応する。彼はとてつもなく迷惑そうな表情を浮かべて、じろりとこちらを見た。まだ頭部を覆うネットが取れていない。 「今日は、歩も連れてきた」 「倫太郎、久しぶり。良かった。意外と元気そうじゃない」 「あほ言え。こちとら死にかけたんだぞ」  倫太郎は自虐的な笑みを浮かべつつ、読んでいた雑誌を隣の棚の上に置いた。  鎮静剤の投与が終わり、倫太郎が目覚めたのはつい四日前のこと。これは歩には内緒だが、四日前、倫太郎が目覚めたという知らせを受けて即座に病院に駆けつけ、そして動いている彼を見た瞬間に感極まって大号泣してしまった。それから毎日のように、日によっては一日に二回以上お見舞いに来ている。倫太郎がやや迷惑そうにしているのはそれが理由だった。 「カメラは?」  倫太郎が尋ねてくる。 「ああ、うん。教えてもらった通り、ちゃんと引き出しの中にあったよ」  私は、ベッドの脇に置かれていた折り畳み式の椅子に座った。   倫太郎が隠し持っていたサイコロ状の小型カメラは、彼の部屋にある鍵付きの引き出しの中に入っていた。二日前、口頭で教えてもらったパスワードでロック解除し、私の手で回収している。回収したカメラは警察に提出済みだ。  一時は集中治療室で生死の境に身を置いていた倫太郎だが、順調に回復し、すっかり元通りになりつつあった。特に記憶に障りがあるわけでもなく、目覚めたその翌日に事件に関する一切を証言した。  ドッキリ企画用の隠しカメラに、千尋たちの悪事が偶然記録されたのは今年の春のこと。千尋と高坂が校内で問題用紙の受け取りや打ち合わせをしていたところを、たまたま盗撮したらしい。 「ねぇ、これを機会に、もうドッキリなんてやめたら? 私のおすすめは、弓道。全国目指せるよ、お兄ちゃんなら」   ずっと前から何とか彼の幼稚な趣味を止めさせられないか思案しているが、うまくいく未来が見えない。先日歩に相談したところ「それは僕にはどうすることもできないよ」と即答された。やっぱり、肝心のところで役に立たない。 「勝手に俺の目標を決めるな、ばか」  倫太郎は呆れたような表情を浮かべながら、悪態をついた。
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