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10 別々の寝室へ
sideロロドロア
別にデートなどしたい訳じゃ無かった。
だけど、彼女のかじかんだ手と綺麗に干された洗濯物を見た時、確かに俺の心は僅かに揺さぶられた。
かと言って、デートという物をそんなにした事がある訳じゃ無かった。
「…どこに行きますの?」
「さぁね、君が決めれば良いさ。」
そんな事を言って、行き先を彼女に任せた。
「王都でお買い物したいのですけれど…」
彼女はカボチャのスープを飲むとそう言った。
「別に良いが…
悪いが、あん…シェリエの実家のように散財は出来ないぞ?」
「…心得ていますわ。
その…洗濯板が古いから…」
彼女の意外な買い物に俺の心はなんだか温かくなった。
女といえば、高い服や鞄をねだり、化粧品に湯水のように金を使う、と思って居た。
いや、それは決めつけだったのかもしれない…
そうとさえ思えた。
何故か、あんなに女という生き物に辟易していた俺でも、シェリエの事は嫌いにはなれなかった。
「それじゃ、明日…」
「えぇ。」
相変わらず別々の寝室に行くのだろうか?
俺はつい、彼女のほっそりとした手首を掴んだ。
「な、何ですの…?」
「いや…たまにはおやすみのキスでも?」
口づけようとしたら、彼女から火で強化した平手打ちが飛んできた。
俺は内心沸々とした状態で、左頬を押さえながら自分の寝室に向かった。
何だよっ!
キスくらいさせろよ!
カマトト女め!
しかし、彼女の柔らかな唇に口付けたい、と思っている自分に、多少驚いた。
口付けなど…
女の方からいつも積極的に貪れていたのだから…
『惚れたのか?』
ゼンスさんの声が脳裏に蘇り、俺は必死でそれを打ち消した。
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