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12 憎しみの涙
sideロロドロア
全く分からなかった。
昨日の夜だろ?
何か言ったか、俺?
俺もシェリエの事を鈍感だと言えないかもしれない。
とにかく分からないので、そのままシェリエと出かけることにした。
彼女は白のセーラー襟に刺繍の入ったワンピースを着ていた。
侯爵家ご令嬢の頃からすれば、だいぶ質素だった。
そんな彼女を見るのは、少し心苦しかったけれど…
彼女の美しさは白の質素なワンピースでも、少しも衰える事は無かった。
そう思うのは、恋なのか?
まさかな…
俺に限って恋など不毛な物をするはずが無い。
そういう意味不明な自信が俺にはあった。
とにかく馬車で王都の中心地まで行くと、彼女は案の定洗濯物屋で洗濯板を探し始めた。
まじか…
いや、マジなのだろう。
「うーん、どれが良いのかしら?
こんな事なら、侍女のアンナにでも聞いておけばよかったわ…」
彼女はそんな事を言いながら熱心に洗濯板を選んだ。
そんな彼女を少し可愛く思った。
会計を済ませて、王都を歩いていると…
「まぁ、シェリエお姉さま!?」
アメジストの飾りのついた豪華な馬車から、ライザリア家のご令嬢、つまりシェリエの妹のサラナが声をかけていた。
サラナはほくそ笑み、意地悪そうな笑顔で言った。
「まぁ…
ドレスも着ておられないなんて…
そのボロ着はご自分でお仕立てになったとか?
まぁ!?
それは洗濯板!?
そんな物使った事ありませんわ!
落ちぶれた物ねぇ。
あぁ、もうセクティス夫人だったわねぇ。」
なんて女だ…!
男の俺でも虫唾が走った!
俺が言い返そうとすると、シェリエの瞳は赤銅色に変わり、髪は立ち上がり、巨大な炎魔法を暴走させようとしていた。
「シェリエ!
落ち着くんだ!」
俺は彼女に言う。
「わ、わ、私に手を出したら、皇帝陛下が黙っていませんことよ!!!」
サラナは御者に出せと合図する。
その刹那、シェリエの巨大なファイアボルトが馬車に向かっていった!
俺は慌てて5メートル程もある氷の鎌を作り出し、サラナの馬車の前に先回りしてファイアボルトを真っ二つに切った。
シェリエは魔力を使い果たして、その場に座り込んだ。
「お、お、覚えてらっしゃい!」
サラナは馬車からそう言って去って行った。
「シェリエ!
大丈夫か!?」
「…して
どうして、私の魔法を止めましたの…?
サラナを殺して…
私も…」
彼女の琥珀に戻った瞳から、憎しみの涙が溢れていた。
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