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3 減らない口
sideシェリエ
屋敷から追い出されたその日、ロロドロア様を乗せた馬車がやって来て、私を迎えた。
「どうも。」
ロロドロア様は美しい金髪の髪を僅かに揺らして挨拶した。
「こちらこそ…」
嘘だ。
こちらこそ?
どうよろしくすると言うのだ?
私は…
ライザリア家の時期当主のはずだった…
なのに…
「クックックっ…!」
ロロドロア様は私を馬車にエスコートするなり、おかしそうに笑い始めた。
「なにかおかしな事がありまして?」
私はキッと睨むように尋ねた。
「俺などと夫婦になるなど冗談じゃない、と顔に書いてありますよ?
まぁ、そうでしょうね。
ライザリア侯爵家は皇帝陛下の治癒師として大切にされ、巨万の富を築いてきた。
その時期当主から外れたのは、あなたにとっては誤算だった。
そうでしょう?」
「…まるで、私の心のうちが分かるような言い分ですわね。」
「しかも?
嫁いだ先が爵位も領地も持たない、ただの騎士階級。
かろうじてあるのは、魔導士団副団長という肩書きだけ。
あなたの家族はきっと、あなたの事を惨めだとせせら笑っているでしょう。」
ロロドロア様は私が睨んでいる事など気にする風もなく続けた。
「それ以上喋らない方が身のためでしてよ?」
私は右手を少し前にかざした。
「それに?
あなたは俺の事など全く愛していない。
愛してもいない夫とのセックスはどうなんでしょうねぇ?
俺は女じゃないから、愛がなくても…」
その時、私の右手から火球がロロドロア様に放たれた。
低温で、服が燃えるくらいの威力にはしてあるが、決して消える事はない魔の火球…
しかし…
ロロドロア様はそれを拳で馬車の背もたれに弾き、叩き潰した。
馬鹿な…!?
私の魔の火球が…!?
水も氷魔法も使わずに、拳で叩き潰すなど!?
不可の…
「才色兼備と言うよりも、とんだじゃじゃ馬のようだな…」
彼はそれだけ言うと、背もたれに深くもたれて、目を閉じた。
こうして、私たちの政略結婚は始まったのだった。
その時はまだ、ロロドロアという男性について、私は良く知らなかった。
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