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4 初めて見せた笑みは
sideロロドロア
彼女は、ずっと目を瞑っている俺の顔を睨みつけて居た。(感覚的に分かる)
気の強い女のようだ。
じゃじゃ馬だと表現したのも、あながち間違ってはいないようだ。
「奥様、見つめられるのは嬉しいが、夜のベッドの上だけにしてくれないか?」
「…なぜ、この縁談を受けましたの?
あなたは冷酷で女性には興味がないと評判だわ。」
「俺の事を知っているのですか…?」
「少し調べさせただけですわ。
見栄えが良く、冷徹で、女などに目もくれず…
氷魔法がお得意らしいですわね?」
ふん、俺の建前のステータスは調査済みという訳か。
頭脳明晰と噂の彼女が好きそうな一手だ。
「あなたの火魔法…
まるでマッチの火のようだったよ。
氷を使うまでもない。
あぁ、言われなくても分かっているか…」
俺はあえて彼女が怒るだろう言葉を挑発的に言ってみせた。
「…挑発には乗りません。
なぜ、私と結婚したの?」
「好きだから…
だとでも、言うと思いますか?
俺も色々と体裁がありましてね。
そろそろ、妻が必要だ。
形上の妻がね。
あなたは俺を愛していないし、俺があなたを愛していない事も承知している…だろう。
あなたは賢いと噂ですからね。」
俺は本心を言った。
「…寝室は別に…
愛して居ないならば…
構わないでしょう?」
彼女はそれだけを言った。
「愛と性欲は別でしてね。
妻となったからには、抱かれるべきでは?」
「迂闊に近づくと、マッチの火では済みませんことよ?」
彼女は自信あり気に妖艶に笑った。
初めて見る彼女の笑みは虚勢と薄っぺらい自信にまみれた、捨てられた毒婦のようだった。
僅かに、可哀想だ、と思ったのは、俺のためにも、彼女の為にも忘れた方が良いのだろう。
「ま…
結婚式を挙げるまでは寝室はお好きに。」
俺はそう言った。
我ながら甘いな、と思った。
馬車は街外れの屋敷に向かって走っていく。
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