始まりの日

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始まりの日

 入学式だと言うのに既に親しげに話している人達がいるのが不思議でならないと思いつつ自分の席を探す。机の隅に貼られた、名前が書かれた小さな紙を頼りにようやく見つけた、教室の真ん中辺りの自分の席に座って見たが、前も後ろも誰かと話しているせいで全く落ち着かない。同じ中学校だったのか、部活か何かで繋がりがあったのかは知らないが、既に仲が良さげな雰囲気が漂っていて何だか入学式という感じがしない。どちらかと言えば新学期の始まりと言った感じだ。そんな教室の中で、知っている人が誰一人として居ない佐倉 千影(さくら ちかげ)はただ時間過ぎるのを待っていた。一応自分の席に座ったがすることも無く、机の上に置かれた資料をパラパラとめくってどうにか時間をやり過ごそうとしていた。どうでもいい様な事しか書いていないであろう資料も、暇を持て余した活字好きの人間にはかなり役に立つ。意外と中は字がびっしり並んでいて、丁度良い暇潰しの相手になってくれそうだ。  そんな事をしてどのぐらい時間が経ったのだろう。そう思った千影がふと視線を上げるといつの間にか全ての席が埋まっていて、教室前方のドアから担任の先生らしき人が入ってくる所だった。 「皆居るみたいだから出席番号順に並んで、今から体育館に行きます。」 やっと入学式が始まるという事に解放感すら覚えそうになっていた。席を立つと同時に、廊下に出てから迷わないように取り敢えず前の人と後ろの人の大体の特徴を覚える。前はショートカットでいかにも体育会系の女子、後ろは細身で背が高いけど優しそうな雰囲気の男子。この二人を見失わない様に気を付けながら廊下に出る。廊下に出てみると既にコミュ力高めの女子が近くの人に出席番号を確認しつつ、皆が並べる様に仕切っていた。初対面であるにも関わらずここまで仕切れる事に感心しつつ、迷わず並べた事に感謝しながら、体育館へと向かった。
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