ぐっばい、Prologue

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 キラキラ輝く人間になりたくて、夜には真っ暗になる田舎を飛び出して、何年が経っただろう。    ――まだ若いんだから。    入社したばかりの頃に上司がかけてくれた言葉。  あの時のぼくは、未だ人生のプロローグだったのかもしれない。    ――人には、向き不向きがあるから。    あの言葉は、打ち切り宣言だったのかもしれない。    両親に見送られ、地元を離れた時、ぼくのプロローグは終わりを迎えたと思った。  いや、今でもそう信じている。  しかし、現状を本編と呼ぶにはあまりにも人生に動きがなく、盛り上がっていない。    ――人生なんて、人それぞれだよ。    友達は、口をそろえて言う。  既婚者もいれば、独身者もいる。  地元に住み続ける人間もいれば、地元を離れた人間もいる。  三者三様。  多種多様。   「最近、子供が生まれてさあ」   「ここの居酒屋、めっちゃ美味かったぜ!」   「昔よく言ってた駄菓子屋、ついに潰れてたわ。なんか寂しいな」   「俺、出張でしばらく海外に行くことになってさ」    未来と過去が入り混じる会話に、ぼくは入っていくことができなかった。   「お前は? 最近どう?」    気を聞かせて話を振ってくれた友達に感謝をしつつ、振り返っても何も思い出せない自分に絶望をした。  ぼくの物語は、地元を出た瞬間で止まっている。   「まあ、ぼちぼちかな」    友達同士の会話としては、零点の返しをしてしまった。   「そうか。まあ、色々あるわなー」    何も聞かずに受け流してくれた友達の善意が痛い。  色々ある、ではないのだ。  何も、何もないのだ。    ぼくはまだ、プロローグの中にいるのだ。
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