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「やめてよ、伸びちゃうじゃない。あなたはもう大きいんだから」
いつものようにつっこもうとお母さんのポケットに手をかけたら、いやあな顔をされた。
「いいじゃん。お兄ちゃんだって、私くらいのときはまだやってたんでしょ?」
自分よりちょっとだけ高い位置にあるお母さんの顔を見上げて、私は言い返す。
この前、ハナちゃんのママに聞いた。
今は離れて暮らしてる筋肉ムキムキのお兄ちゃんも、少し前までは私みたいに、お母さんのポケットでぬくぬくするのが大好きだったんだって。
お母さんは最近、私をポケットから離そうとする。小さい頃は一日中甘え放題だったのに。
「お友だちのハナちゃんもモモちゃんも、そういうのはもう卒業したじゃない」
お母さんの指摘に、
「よそはよそ、うちはうちでしょ」
すました顔で私は言う。
たしかに同い年のみんなは、この前のお誕生日くらいから、あんまりお母さんに甘えてないみたい。
「なによ。いつもお友だちとあちこち跳ね回って遊んでばっかで、親の言うことなんて聞かないくせに。甘えたいときだけ」
「あちこち跳び回るのはお母さんだって一緒でしょ」
不満げなお母さんに、しゃらっと答える私。
「まったく、口の減らない子ね」
お母さんがためいきをついた隙に、
「いいじゃんちょっとくらい」
私はポケットに手をかけた。
ずぼっ。
「んもう、重いんだからね!」
「うふふ」
お母さんの文句を聞き流して、私はにんまり笑う。
あー落ち着く。やっぱここが一番だよねー。
「ねえ見て、あの子! かわいー。もうお母さんと身体の大きさ変わんないのに、無理やりポケット入ってご機嫌な顔してるー」
「ほんと、お母さんのおなかのポケット大好きだよな、カンガルーの子どもって」
【 了 】
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カンガルーの子どもは、1歳前後でお母さんのおなかの袋から卒業するそうです(種類差・個体差あり)
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