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青以が万里を抱え上げ、背の高いスツールに座らせてやる姿を見て要は意外そうな顔をした。
青以の子ども嫌い、人嫌いを知っているからだ。
「万里さんには鉄板ナポリタンと、食後にクリームソーダをお出しする約束なんですが、音無さんはどうなさいますか?少し軽いスープパスタをご用意しましょうか」
市成がきくと、青以は柔らかい笑顔とともに答えた。
「お気遣いありがとうございます。病み上がりなのでスープパスタが嬉しいです」
「かしこまりました」
マスターが調理に、茉由がそれを手伝いにキッチンに行くと、要が万里に話しかけた。
「万里ちゃん、食べ物の好き嫌いはある?」
麗しの要に見つめられ、万里はドキドキしながら答えた。
「好き嫌いはなくて何でも美味しく食べますけど、最近一番感動したのはマスターさんが作ってくれたフレンチトーストと、ドルチェ……」
万里がコーヒーの名前を思い出そうと瞬きすると、要が優しく続きを言った。
「ドルチェチョコラーダ?」
「はい。私、コーヒーって初めて飲んだんですけど、チョコの味がしてびっくりして……すごく美味しかった」
「初めて飲むコーヒーが鷹夜さんのお手製だなんて、万里ちゃんはとても幸せ者だね」
まるで自分のことを褒められたかのように嬉しそうに要が言った。
「はい」
万里の返事に要はにっこり微笑した。
「今夜のディナーも鷹夜さんが万里ちゃんと音無さんのために腕を振るってくれるから、お楽しみにね」
そう言って要がそばを離れると、青以が万里の顔を覗き込んだ。
「万里、顔が赤い。暑いか?」
「ううん。要さんがあんまり素敵だから……」
「見惚れたのか」
万里が小さく頷くと青以は笑った。
「確かにこの店は美男美女揃いだな」
万里は心の中だけで「叔父さんもね」と呟いた。
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