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マンションを出ると青暗い空に細い月がかかっていた。
白い息を吐きながらふたりはすぐ隣の雨音に向かって歩いて行く。
通りに面した大きな窓から店内の暖かい灯りが見える。
入り口のドアを開けると真鍮のベルの音のあとに複数の声が重なって、いらっしゃいませとふたりを出迎えた。
カウンターの中に市成夫妻、そしてカウンターの外に男女ふたりが立っていた。
万里は背の高い男性の方を見てびっくりして言葉を失う。
「万里ちゃん、こんばんは。俺は恵崎要です。よろしくね」
パリッと糊の効いた白いシャツに黒いパンツ、そして黒いギャルソンエプロンを着たその麗しい男性は、万里と目線を合わせるために片膝をつき、優しく微笑んだ。
「は、はじめまして、音無万里です。よろしくお願いします」
万里は要の人間離れした美貌に吸い込まれそうになりながら、なんとか挨拶した。
「ね、思わず見惚れちゃうくらい美しい人でしょ」
カウンターの中から茉由がそう言って笑う。
すると今度は要とは逆側から万里に声がかかる。
同じく白シャツに黒パンツ、ギャルソンエプロン姿のスタイルの良い女性だ。
「万里ちゃん、私は橘紗弓です。よろしくね」
サラサラの黒髪に黒い大きな瞳の美女に見つめられ、万里はドキドキした。
「よろしくお願いします」
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