極彩色の街

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 近所に白猫たちの縄張りがあり、コインパーキングの前を通ると、鳴かれることがある。一度猫好きの使命感からたっぷり栄養の入った缶をその黒猫にやると、ゆっくり食していたので随分待たされた。警戒していた猫仲間が数匹やってきてわずかに餌を口に含んで去った。しゃがんで猫達を眺めていると、通りすがりの女性がやってきてこの地域の野良猫事情や自身が猫を7匹飼うことになった話をしてくれた。空缶を回収する段になり、彼女は「この猫はたっぷり栄養を取ってるよ、この体型だもん。」と言った。なるほど、この猫達の体型はうちの飼い猫エレナちゃんと大差ない。むしろエレナちゃんより少しお腹が大きかった。  私達は誰が黒猫たちに定期的に餌付けしているのかを話しながら、それが誰であるか同じ想像をしていたように思われるが口にせず会話を終えた。この一帯は戦後、非合法の売春宿が軒を連ねる青線と呼ばれる場所であった。現今においても、どぎつい原色の下地に白文字で「ソープランド」と書かれた大きな看板のある店が住宅の間に数件並んでいる。平日の夜、あるいは休日の昼間、時折電話をかけながらうつむいて歩く3,40代の男性は大概この種の店の入口に吸い込まれてゆく。
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