光の追憶

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光の追憶

カタン、カタン。 包丁を動かす音が、部屋に響く。 今日の朝食はラズベリージャムをたっぷり塗ったトーストに、かぼちゃを煮詰めたスープ。 スープを掬って口に入れると、柔らかい甘みが広がり、暖かさがとろけていく。 スプーンをくわえたまま部屋の装飾に手を伸ばし、くるくると回す。 光を放ちながらキラキラと輝くそれは、レヴァの瞳の色のようだ。 エメラルド色の、優しさを閉じ込めたような煌めき。 光の当たる角度によって、透け具合が変わっていく。 「綺麗」 レヴァの方を見やると、いつものような微笑みに心が安らいだ。 キッチンに降り注ぐ柔らかな光の雨、その中に佇むレヴァ。 無意識に見惚れてしまう。 「ラリア、切ったんだけど食べる?ネクタリンだよ」 「えっ、食べる!」 レヴァは私を見て、ふふ、と笑みをこぼした。 レヴァは私の横で果実を齧りながら、本をぺらぺらと捲っている。 どこか愁いを佩びたように見える表情。 薄く肌にかかる前髪が、さらさらと揺れる。 「ラリア、今日は何をして過ごすの?」 「えっと、庭の手入れをしようかな…。肌寒さはあるけど」 「あぁ、それじゃあ僕も手伝おうか。寒いけど、その空気の中に咲く花があるんだもんね」 「うん、凛としてて綺麗」 ふふ、とレヴァの口が綻ぶ。 森の中にひっそりと建つ、レヴァの優しい魔法を纏い、虹色に輝くこの家。 ところどころに拘りの家具や装飾があしらわれていて、レヴァのセンスの良さが分かる。 その美しさは庭まで行き届き、冬にも関わらず沢山の花が咲き誇っている。 得意な氷魔法で花を氷に閉じ込めたり、花びらの上に雪を降らせたりできるこの季節が、私は大好き。 この家には楽園の中に佇むアトリエのような雰囲気があって、こんなところに住める私はつくづく幸せだなぁと思ってしまう。 あぁ、レヴァの煌めく魔法が、この世界中に広まればいいのに。 そしたら、世界はこれ以上ないほどの幸せで満たされるのにな。 特にこの部屋は、レヴァの一番のお気に入り。 繊細な水彩画や植物も飾られていて、いるだけで癒される。 壁には、レヴァが探しているという青緑色の花の絵もある。 目を引く美しさだけれど、こんな花本当にあるのかなぁ。 「ねぇレヴァ、この花何?」 「あぁ、綺麗だよね。それはね、愛の花だよ」 愛の花。不思議なものもあるんだなぁ。 「愛の花?…っていう名前なの?」 「いや、名前は他にあるけどね。特別な花なんだ」 「へぇ」 瞬間、冷たく張った空気が頬を掠め、ふるっと身震いがした。 「寒い?これ羽織ったらあったかいよ」 レヴァが、ふわっとしたマントのようなものを渡してくれる。 「ほんとだ、あったかい」 「ふふ、それは高級な生地だからね?」 悪戯っぽく微笑むレヴァ。 「えっ、使っちゃっていいの?」 思わずそう訊く。 「もちろん。それじゃあ朝食も終わったし、早速庭に出ようか」 「うん!」 ずっと、ずっと、ずっと、この日々が続くんだと、私は信じてた。 変わらないものなんて、どんな時代だって在るはずがないのに。
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